侑希がからかうように笑う。いつもだったら「そんなことないもん」って軽く流せるのに、なぜか今日はムッとした。

「侑くんほどじゃないよ」

 少しとげのある言い方に、侑希はこちらを見つめたまま僅かに眉を寄せた。

「俺、全然遊びまわってないよ? 塾と部活ばっかりだし」
「どうだか」

 今日の夕方だって、可愛い女の子とデートしていたじゃん、という言葉はすんでのところで呑み込んだ。四時過ぎという時間的に、塾の帰りにそのままあそこに花見に立ち寄ったことは容易に想像がつく。

「なんだよ、その言い方」

 私の挑発的な言い方に、侑希も少し苛立ったように口調がきつくなる。

 険悪な空気に居心地が悪くなり、私はすっくと立ちあがった。
 なんでこんなにイライラしてしまうのか、自分で自分がわからない。私が友達とどこかに遊びに行くのを侑希に伝えないのと同様に、侑希がどこに誰と行こうが私が干渉すべきではない。
 そうはわかっているけれど、無性に腹が立った。

「私、帰る」
「え?」

 突然のことに驚く侑希の横で、私は机の上のものをまとめ始めた。乱雑に鞄の中に突っ込むと、それを肩に掛ける。

「おい。雫、待てよ」

 侑希も慌てて机の上を片付けると、小走りで私の後を追いかけてきた。

「夜遅いから、一人だと危ないだろ」
「危なくない。塾に行っている子はみんな普段、もっと遅い時間に一人で帰ってるじゃん」
「それはそうだけど……」

 追いついた侑希は私の横を歩きながら、言葉を詰まらせる。

 閑静な住宅街の道路は数十メートル置きの街頭に照らされているものの薄暗く、人通りもまだらだった。誰もいない夜の街は、別の世界に迷い込んでしまったのではないかと不安を覚える。普段だったら閉館のチャイムが鳴るまで図書館にいるのに、もしかして私を心配して追いかけて来てくれたのだろうか。

 ありがとう。ただその一言を伝えればいいだけなのに、口から出たのは意地悪な言葉だった。

「侑くん、好きな子にまだ気持ち伝えてないの?」
「え? ……うん」

 侑希が戸惑ったように、言い淀む。
 どうしてだろう。その態度が、ささくれ立った気分を益々苛立たせた。

「仲良くしているって言っていたじゃん」
「それはそうなんだけど……」
「いい加減に言えばいいのに。もう半年以上も経っているのに。男らしくない」