「私、それって雫ちゃんのことじゃないかと思うんだけど」

 隣で聞いていた夏帆ちゃんが、体を乗り出して口を挟む。

「だって、倉沢くんって雫ちゃんと仲いいじゃん?」
「確かにそうだよね」と美紀ちゃんが頷く。
「うんうん、それ有り得る!」優衣ちゃんまでそんなことを言い出した。

 その場にいた三人が盛り上がり始めたので、私はびっくりしてすぐにそれを否定した。

「ちょっ、ちょっと! そんなわけないって。だって──」
「「「だって?」」」

 三人が一斉にこちらを向く。私は続ける言葉が見つからず、言葉を詰まらせると視線をさ迷わせた。さくらに言われて侑希の縁結びの手伝いをしていることは、ここで言うべきではないだろう。

「侑くんの好きな人、多分だけど、塾の人だと思うんだ。本人から聞いたわけじゃないけど……」
「あ、そう言えばさくら祭のときに倉沢くんの塾の友達が来ていたよね? 女の子もいた気がする!」
「確かにいたね! 何人かいたよ。あの中の一人かな?」
「そっかー、雫ちゃんじゃないんだ」

 三人はすぐに納得したように盛り上がり始めた。私はその会話を聞きながら、なんとなく胸が痛むのを感じた。
 いつの間にか、レジャーシートの上には食べ終えたスナック菓子の袋が散らばっている。紅茶を飲もうとペットボトルを持ち上げると、殆ど入っていなかった。

「私、お手洗いのついでにゴミ捨てに行ってくるよ。自動販売機でお茶も買いたいし」
「あ、うん。ありがとう」

 散らばっているごみを余ったレジ袋に纏める。三人は相変わらず大盛り上がりなので、それを持った私は立ち上がり、その場を後にした。

「えっと、お手洗いは確かこっちだよね……」

 さくら坂公園には入学してから何回か来たことがある。けれど、こんなに人が多いことは初めてで戸惑った。いつもの公園が、まるで初めて来る場所のように感じる。

 どっちだろう?

 私は周囲を見渡す。
 見える範囲の芝生は、レジャーシートの上で横になってのんびりする人やお弁当を広げて歓談する人で溢れていた。通路ぎりぎりまでブルーシートが敷かれ、歩くのも一苦労だ。
 ちょうど視界に入った若い男女のグループは大学生だろうか。まだ日が明るいうちから缶チューハイを片手に盛り上がっていた。

 お花見の季節には、やっぱり神様も宴会しているのかな?