席を探していた美紀ちゃんと優衣ちゃんが空きスペースを見つけたようで、こちらに向かってぶんぶんと手を振る。

「あ、本当だ。ちょうどいい場所が空いていてよかった」

 大きな桜の木の下は、そこだけがすっぽりと空いていた。
 もしかすると、お昼にお花見をした人がビニールシートをどかしたばかりなのかもしれない。私と夏帆ちゃんは小走りでそこに寄ると、持っていたビニールシートを取り出した。

 大きなビニールシートを広げて、四人で円を作るように座ると、持ち寄った軽食を取り出す。もう二時近いので、お菓子が中心だ。私は自宅で今朝作ってきたフィナンシェをそこに置いた。他には、コンビニで買ってきたチキンナゲット、ポテトチップス、それに、チョコレート菓子などだ。

「ではでは、かんぱーい!」

 それらを可愛らしく並べると、ペットボトルのお茶やジュースで乾杯する。部活の話に、恋の話に、気になるアイドルの話、それと勉強の話を少しだけ。しばらくは他愛のない話で盛り上がっていたけれど、ふと優衣ちゃんが言った言葉に私はドキッとした。

「ねえ、雫ちゃん。倉沢くんって彼女と別れたの?」
「え? なんで?」

 突然の質問に動揺を隠すように聞き返すと、優衣ちゃんは口元に人差し指を当てて眉を寄せる。

「実はね、バレンタインデーにクラスの子が倉沢くんに玉砕覚悟で告白したらしいの。そのとき、倉沢くんが『彼女はいない』って言っていたって噂を聞いて」
「……そうなの?」
「うん。でも、結局『好きな子がいる』って断られたらしくて」
「ふうん」
「雫ちゃん、倉沢くんと仲いいよね? 話聞いてない? 相手が誰とか知らないの?」
「彼女と別れたことは聞いていたけど、今好きな人が誰かは知らないよ」

 私は左右に首を振る。

 いつの間に侑希は告白なんてされたのだろう。バレンタインデーの日は一緒に帰ったけれど、そんなことは一言も聞いていない。なんか、すごくショックだった。
 確かに以前からモテる人ではあったけれど、噂になるくらい広まっていることを毎週のように一緒に図書館に行っていた自分は全く知らないなんて。
 この感覚、知っている気がする。そう、侑希が中学二年生のとき、初めて彼女ができたことをクラスメイト経由で聞いたときもこんな気持ちになった。自分だけのけ者にされたみたいな、寂しさ。