たったの五円でこれからの幸せな人生を約束してくれるなんて、なんて太っ腹。さすがは神様だ。指を交互にして両手を組んだ私の前で、さくらはストンとベッドから降りると、人差し指を一本差し出してこちらを見た。
「ただし、条件がある」
「? 条件?」
「本日、もう一人我の元に願いを告げにきた者がおる。その者の縁結びの手伝いをせよ」
「縁結びの手伝い?」
「それを成就させた暁には、そなたの願いは叶うじゃろう」
願いが叶うのは嬉しいのだけれど、縁結びの手伝いってなにをするの? と眉を寄せた私の眼前に、さくらの真っ白な手が迫る。その瞬間ぐわんと景色がゆがむのを感じ、きつく目を閉じた。
お、落ちるー!!
そう思って頭を両手で庇うように覆う。けれど、痛みはいつまでもこず、足の裏に地面の感触を感じる。私は恐る恐る目を開け、辺りを見渡した。
「あれ。ここって……」
向かって右側には赤い鳥居、左側にはお賽銭箱と小さな祠、そして、正面には文字が書かれた石板。気がつけば、私は今日の昼間に行ったさくら坂神社にいた。
わけがわからずに立ち尽くしていると、タッ、タッと軽やかな足音が聞こえた。パッと振り返り、鳥居の方から現れた人物を見た私は目を見開いた。
そこには、侑希がいたのだ。私の姿が見えないのか、侑希はまっすぐに祠の前まで来ると、鞄を下ろしてがざごそと中を漁った。そして、財布を取り出すと五円玉を取り出す。
カシャン、と金属の鳴る微かな音と、パンっと手を叩く音。侑希が手を合わせて目を閉じた瞬間、頭の中に声が響いた。
──どうか、あの子と両想いになれますように。
脳内に直接響くような声は、間違いなく侑希の声。最近は殆ど会話をすることもなくなったし、以前よりもずっと低くなったけれど、幼稚園からずっと一緒なのだ。聞き間違えるはずはない。
侑希は目を開けると祠に向かってぺこりとお辞儀する。そして足元に置かれた鞄を持ち上げようとして動きを止めた。何をしているのだろうと思ったら、鞄の中からペットボトルを取り出して祠の前にちょこんと置いた。私が今日見た、あのペットボトルだ。きっと、お供え物のつもりなのだろう。
そして、今度こそ鞄を持ち上げると振り返ることなくまっすぐにさくら坂神社を後にした。
◇ ◇ ◇
おかしな夢を見た、としか言いようがない。
「ただし、条件がある」
「? 条件?」
「本日、もう一人我の元に願いを告げにきた者がおる。その者の縁結びの手伝いをせよ」
「縁結びの手伝い?」
「それを成就させた暁には、そなたの願いは叶うじゃろう」
願いが叶うのは嬉しいのだけれど、縁結びの手伝いってなにをするの? と眉を寄せた私の眼前に、さくらの真っ白な手が迫る。その瞬間ぐわんと景色がゆがむのを感じ、きつく目を閉じた。
お、落ちるー!!
そう思って頭を両手で庇うように覆う。けれど、痛みはいつまでもこず、足の裏に地面の感触を感じる。私は恐る恐る目を開け、辺りを見渡した。
「あれ。ここって……」
向かって右側には赤い鳥居、左側にはお賽銭箱と小さな祠、そして、正面には文字が書かれた石板。気がつけば、私は今日の昼間に行ったさくら坂神社にいた。
わけがわからずに立ち尽くしていると、タッ、タッと軽やかな足音が聞こえた。パッと振り返り、鳥居の方から現れた人物を見た私は目を見開いた。
そこには、侑希がいたのだ。私の姿が見えないのか、侑希はまっすぐに祠の前まで来ると、鞄を下ろしてがざごそと中を漁った。そして、財布を取り出すと五円玉を取り出す。
カシャン、と金属の鳴る微かな音と、パンっと手を叩く音。侑希が手を合わせて目を閉じた瞬間、頭の中に声が響いた。
──どうか、あの子と両想いになれますように。
脳内に直接響くような声は、間違いなく侑希の声。最近は殆ど会話をすることもなくなったし、以前よりもずっと低くなったけれど、幼稚園からずっと一緒なのだ。聞き間違えるはずはない。
侑希は目を開けると祠に向かってぺこりとお辞儀する。そして足元に置かれた鞄を持ち上げようとして動きを止めた。何をしているのだろうと思ったら、鞄の中からペットボトルを取り出して祠の前にちょこんと置いた。私が今日見た、あのペットボトルだ。きっと、お供え物のつもりなのだろう。
そして、今度こそ鞄を持ち上げると振り返ることなくまっすぐにさくら坂神社を後にした。
◇ ◇ ◇
おかしな夢を見た、としか言いようがない。