食べ終えた抹茶白玉の器をトレーに置くと、私は先ほど淹れて貰ったばかりの日本茶の湯飲みを手に取った。透き通った薄緑色のお茶は、一口含むと独特の苦みと、それを打ち消すような甘い味わい。

「──私も、塾とか行った方がいいのかな」
「え? なんで?」
「最近、みんな通い始めているし、いつまでも侑くんに教えてもらうのも悪いし」
「そんなの、気にしなくていいって。俺が教えたくて教えているんだから。来年のコースも同じ理系だし」

 
 先日行われた進路調査では、侑希と私は同じ『理系コース』を選択した。来年度からは成績による習熟度別授業なども始まるが、コースが同じであればそこまで授業内容は変わらないはずだ。
侑希は気にするなと明るく笑う。けど、本当にそんな風に甘えてしまっていいのかと迷っている自分がいた。

「もう二年生かー」

 侑希の呟きが、風に乗って消える。
 見上げた青い空には一本、クレヨンで描いたような飛行機雲が伸びていた。

    ◇ ◇ ◇

 桜ほど日本人の心を惹きつけて止まない花はないと思う。
 かく言う私も、桜が大好きな一人だ。けれど、人混みが好きかと言われると、それとこれは別の話。あまりの人の多さに、中ば呆気にとられてしまう。

「すごいね……」
「去年もこんな感じだったよね? 入学式の日」
「そうだったっけ? 公園には来なかったから、気が付かなかった」
「そうだったよ。すっごい人が多くて、びっくりしたもん」

 隣を歩く夏帆ちゃんは去年の今頃を思い出したのか、ケラケラと笑う。

 三月の最後日となる今日、私は仲のよいクラスメイトの夏帆、美紀ちゃん、優衣ちゃんの三人と、学校の近くにあるさくら坂公園にお花見に来ていた。
 ここの公園はちょっとしたお花見のスポットとして有名で、毎年多くの人が訪れる。そうは知っていたけれど、去年実際に来たわけではないので、あまりの人の多さに驚いた。

 等間隔に植えられた桜の木の下の芝生には、ぎっしりとビニールシートが敷かれている。近所の会社の人なのか、ブルーシートで席取りをしているサラリーマン風の人もいれば、子供を連れたママ友達風の人、それに、私達と同じく春休み中の高校生や大学生グループの姿も多かった。

「夏帆ちゃん、雫ちゃん、こっち! ちょっとまだ空いているよ」