なんですか、その〝子供の世話をしています〟的な態度は。頬を膨らませた私がぽすんと鞄を叩くと、侑希はおどけたように笑った。むむっ、これは経済制裁を加える必要がありますな。

「あげようかと思っていたけど、侑希サンがひどいこと言うからやめよっかなー」
「え? くれようと思っていたの?」

 侑希はその返事を予想していなかったようで、驚いたように目を見開く。

「うん。クッキング部で作ったから。けど、どうしようかなぁ?」
「ください。お願いします。雫サマ」
「雫サマって何よ?」

 両手を合わせてちょうだいのポーズをする侑希の様子が面白くて、思わず噴き出してしまった。

「はい。どうぞ」
「ありがとう」

 鞄から先ほどラッピングしたばかりのチョコを取り出すと、侑希に差し出す。
 侑希はそれを受け取ると、それは嬉しそうに相好を崩した。ここ数年、侑希にチョコレートをあげたことはなかったけれど、こんなに嬉しそうにしているのを見たのは初めてな気がする。

「侑くんも、義理チョコの数の競争をしているの?」
「え? なんで?」
「なんか、すごく嬉しそうだから。言ってくれれば、クッキング部のみんながばら撒き用にトリュフ用意していたのに」

 笑いながら教えてあげると、侑希は気恥ずかしかったのか、ふいっと目を逸らしてしまった。
 
「帰るか」
「そうだね」

 並んで歩くさくら坂で、さくら坂神社へと向かう曲道に通りかかる。そう言えば、本命の子からはチョコレートを貰えたのだろうか。

「ねえ、侑くん」
「なに?」

 横を歩く侑希が、こちらを見下ろして首を傾げる。その顔を見たら、なんとなく聞こうと思った気持ちがシュルシュルと縮んでゆく。

「……。なんでもない」
「変な奴」

 侑希がクスッと笑う。

「悪かったですね」
「いいよ、別に。雫だし」

 またからかっているのかと思って言い返そうと横を見上げると、予想外に優しく見下ろしている薄茶色の瞳と目が合った。トクンと、間違いなく胸が跳ねる。

「……うん」
「なんか、今日は本当に変。どうしたー。もしかして、作りながらチョコの食い過ぎで腹痛か?」
「違うって!」
 
 怒ったように侑希の鞄を叩こうとすると、すんでのところでひょいっと避けられる。
くー、このやろう!