夕方の人気のない校舎を並んで歩いていると、聞き覚えのある足音が聞こえた。上履きの踵を履き潰した、パタん、ペタん、という独特の音。階段で下を向くと、思った通り、侑希だった。

「あれ? 雫?」

 階段を登ってきた侑希は、私と久保田くんの姿を見つけると顔を見比べて表情を怪訝なものへと変えた。

「何しているの?」
「私は帰るところだよ。久保田くんは、先生に頼まれたプリント出しにいくところ」
「ふーん。俺、教室に荷物取りに行ったら帰るから、エントランスで待っていて」
「わかった」

 手を上げて別れると、再び久保田くんと歩き始める。

「原田さんってさ」
「うん?」
「倉沢と付き合っているの?」
「へ!?」

 思いがけない質問に驚いて、思わず大きな声をあげてしまった。私は慌てて両手をブンブンと振って否定した。

「ち、違うよ!」
「違うの? 一緒に帰るのに?」
「うん。全然違う。家が隣だから、方向が同じなだけ」

 付き合うどころか、恋の悩みの相談相手だ。何も役に立っていないけれど。
あー、びっくり。まさか、そんな勘違いをされていたとは!

「そっか」
 
 久保田くんはホッとしたような、安堵の表情を浮かべる。

「久保田くんは、自転車通学だっけ?」
「うん、そうだよ。──じゃあ、俺あっちに寄るから、気を付けてね」

 職員室の前で、久保田くんが片手をあげる。私も手を振り、その場を後にした。エントランスで待っていると、程なくして現れた侑希は片手に紙袋をぶら下さげていた。

「お待たせ」
「うん、平気。それ、チョコ?」
「かな? なんか、貰った。義理チョコは受け取ってる。一、二、……、五こかな」
「相変わらず、たくさんだねぇ」

 私はその紙袋を覗いて苦笑する。

 高校生になり皆特定の彼氏ができて落ち着いてきたせいか、最盛期に比べれば減ったが、相変わらず多い。
 私は鞄に入れた、今日作ったばかりのチョコを軽く触れる。こんなにたくさん貰ったなら、これ以上増えたら迷惑かな。

「雫は?」
「え?」
「雫はくれないの? 俺、結構雫サンの面倒見てあげているんだけどなー」

 侑希は大袈裟なため息をつくと器用に片眉をあげ、両手を上に向けるポーズをとる。さすが四分の一とはいえ外国人の血が混じっているだけある。オーバーリアクションが様(さま)になる。

「ええ?」