毎週一緒に図書館に行くし、クリスマスプレゼントもきちんと渡せて使ってくれているのも確認した。お返しには、保温機能付きの水筒を貰った。このプレゼントのチョイスには少し驚いたけれど、なんとも雫らしいと思ってしまった。今日も鞄には、家で親に淹れてもらった温かいお茶が入っている。

 けれど、その先の一歩が進めない。
 その一言を伝えて、この関係が壊れるのではないかと思ってしまう。そのくせ、今に雫が別の誰かに掻っ攫われてしまうのではないかと不安になる。我ながら情けない、完全にチキン野郎だ。
 
 年末年始に訪れた祖母の生地、イギリスではバレンタインデーは大切な人に向けて、男性が匿名でメッセージを贈る習慣がある。もしも匿名で雫にメッセージを伝えたら、どんな反応を示すだろう。きっと、その相手が俺だなんて夢にも思わないのだろうな。

 昼休み、食事をとろうかと立ち上がると、クラスメイトの女子の一人からこそっと声を掛けられた。

「ねえ、倉沢くん。お昼終わったら、ちょっとだけ時間作れる? 理科室に来てほしいんだけど」
「……わかった」

 答えながら、気分が重くなる。
 満面に笑みを浮かべたクラスメイトが、クルリと振り返り後方へと走ってゆく。そちらを向くと、何人かの女子が固唾を呑んでこちらを見守っていた。

「あれ? 侑希、今日食べる量少なくね?」

 お昼ご飯の食堂のカレーを普通盛りにしたせいで、一緒に食事した健太達には訝しがられた。俺はのらりくらりとかわして、「ちょっと用事がある」と言ってその場を後にする。

 理科室の前では、さっき声を掛けてくれたクラスメイトが待っていた。俺に気付くと、手を大きく振って手招きする。トンっと背中を押されて中に入ると、何回か目にしたことがある光景。クラスメイトの、比較的仲のよい女子が立っていた。 

「あの……。倉沢くんに彼女がいるっている噂は聞いたことがあるんだけど……、好きです!」

 両手で差し出されたのは、クリーム色にピンクの水玉模様、黄色いリボンがかけられた小さな箱。今日のために用意したチョコレートだろう。そして、その箱は小刻みに震えていた。

「ごめん……」

 謝罪の言葉に、目の前の女の子の肩が小さく揺れる。胃がズンと重くなるような感覚がした。自分を叱咤するように、ぎゅっと腹に力を入れた。もう、嘘をつくのはやめよう。