すでに彼氏がいる友達に聞くと、楽しいことがたくさんあるけれど、それと同じくらい切ないこともあるとか。少し興味はあるけれど、それを知るのはなんだか怖いような気もする。

 暫く悩んでから鞄からゴソゴソとお財布を出し、小銭入れの中身を確認すると、ちょうどタイミングよく五円玉が入っていた。

 縁結びの神様に五円玉。うん、なんか幸先いいな。
 それをお賽銭箱に入れるとカシャンと金属が当たるような高い音がした。

 パンと手を叩いて両手を顔の前で合わせて目を閉じる。

 ──どうか私に恋……、いやいや、もとい。どうか、素敵な人生を送れますように!

 『縁結び』はなにも恋に限らない。人と人、大学や会社など、ありとあらゆる縁を結んでくれるはずだ。
 只今高校一年生の夏真っ盛り。まだまだ『素敵な人生』なんて願うには早い気がするけれど、何事も要領の悪い自分は早すぎるくらいがちょうどいい。

 ──どうか神様、私に幸せを!

 そんなことを思って、私はその場を後にした。

   ◇ ◇ ◇

「……く、し……く。起きるのじゃ」
「……うん」
「しず……。雫! 起きるのじゃ!」
「はいぃっ!」

 やばい、今日って学校の朝活動の日だっけ!? と思わず飛び起きて、ぴしっと背筋を伸ばす。そこで私は目の前のものを見て目を瞬かせた。いるはずがない人がいたのだ。

「昼間の女の子?」
「我は女の子ではない。さくらじゃ」
「桜?」

 ベッドの上で体を起こした私の目の前、ちょうど布団でいうと足の上のあたりには、今日の昼間見た綺麗な女の子が座っていた。虹色の瞳でこちらを見つめている。

「桜の木の精なの?」
「否。縁結びの神じゃ。名をさくらという」
「神様!」

 思わず驚きの声を上げる。縁結びの神様が女の子の姿かたちをしているなんて、知らなかった。私の想像では、もっと妖艶な天女様みたいな人が──。

「全部聞こえとるぞ」
「あ、すみません」

 なんと、神様は考えていることが読めるらしい。さすが神様。恐れ入ります。さくらはなんとか誤魔化そうとへらりと笑う私を見つめ、ほうっと息を吐いた。

「お主は今日、我に願いを告げたな? それを叶える手助けをしてやろう」
「え? 本当!?」

 私は大きく身を乗り出した。