見上げてはぁっと息を吐くと、白い吐息は数秒で空気に混じり、消えてゆく。
 夜空には台形をひっくり返して繋げたような独特の形をした、オリオン座が見えた。右上の端、一際明るく輝く赤い星は、ベテルギウスだろうか。以前、理科の授業で習った気がする。

 寒さで鼻がツーンとして、温めるように両手で口と鼻を覆った。おろしたての毛糸の柔らかい感触が、頬に触れる。吐いた息が毛糸越しに手に当たり、温かい。
 私は顔から手を離すと、真新しい手袋を眺めた。毛糸でできたクリーム色の手袋には、手の甲の部分に雪の結晶の模様が入っていて可愛らしい。


 侑希がこれをくれたのは、冬休みに入った直後、昨年の十二月二十二日だった。消しゴムを切らしてコンビニに買いに行った私が家に入ろうとしたとき、侑希に呼び止められたのだ。
 
「雫!」
「あれ? 侑くんどうしたの?」

 家に入ろうとしていた私に対し、ちょうど家から出てきた侑希。ラフなパーカー姿の侑希は、持っていた紙袋をズイッとこちらに差し出した。
 
「ちょっと早いけど、メリークリスマス」
「え?」

 私は目をしばたたかせる。紙袋を受けとると、私は中を覗きこんだ。赤いリボンでラッピングされた小さな袋が入っていた。

「これ、私に?」
「うん。──いつも世話になっているから」

 まさか、クリスマスプレゼントを貰えるなんて思っていなかった。侑希は私に世話になっていると言うけれど、どちらかというと世話になっているのは私の方だ。

「そんなの気にしなくてよかったのにー! ──でも、ありがとう」

 誰かにプレゼントを貰うのは、とても嬉しい。

「開けていい?」
「いいよ」

 リボンをほどくと、出てきたのはクリーム色の手袋だった。毛糸素材の温かさ重視タイプ。けれど、女の子らしいデザインだ。

「わあ、可愛い! ありがとう」

 早速手に嵌めると、フリーサイズのそれは毛糸が伸縮してぴったりとフィットした。かじかみそうな指先が、ほんのりと温まる。

「どういたしまして。雫、いつも図書館帰りに寒そうだからさ」

 侑希がにこりと笑う。私は驚いて侑希を見返した。
 もしかして、図書館帰りにいつも私が手を擦り合わせいるのでこれを選んでくれたのだろうか。侑希の日本人離れした、薄茶色の瞳が柔らく細まった。