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 部屋でスマホと弄っていた私は、調べ物を終えるとそれをポンと机の上に置く。色々と悩むところではあるけれど、今年に入って何回も悩んで自分なりに考えたことだ。

 部屋を出て一回に降りると、母親はキッチンで夕食の準備をしていた。降りてきた私に気付いた母親は、「もう少しでできるから待っていてね」という。
 近くに寄ると、今日はトンカツのようだ。ちょうど卵液に浸した豚肉を、パン粉の中に入れているところだった。

「手伝うよ」
「あら、そう? じゃあ、キャベツの千切りお願いしていいかしら」
「うん」
 
 冷蔵庫からキャベツを取り出すと、何枚が剥いて水でよく洗う。それを重ねて、指を内側に入れる猫の手を作ると、トントントンとリズミカルに切り始めた。
 昔は上手くできなかった千切りも、お手伝いとクッキング部の効果でだいぶ上手になった。

「しずちゃん、お母さんより上手かもしれないわ」

 隣にいる母親がそう言って笑う。私もつられるように、はにかんだ。

「ねえ、お母さん」
「なーに」
「私さ、料理作るの好きじゃん? 来週、文系か理系かの進路提出なんだけど──」
「うん」
「理系にしようと思うの」

 黙々と作業していた母親がその手を止め、不思議そうにこちらを見つめる。

「理学部に行きたいなぁって思って。あのね、私、食品会社の研究員になりたいの。それで、レトルト食品とか、冷凍食品の開発をしたくって」

 夢中で喋る私を何も言わずに見つめていた母親が、耐えきれない様子でふふっと笑う。私はそれを見て、言葉を止めた。

「いいんじゃない。お父さんにも、言ってね」
「うん」
「お母さん、てっきり大学受験なんてやめて調理師専門学校に行きたいって言い出すのか思ったわ。もちろんそれでもいいのだけど、理学部なんて想像してなかったから意外。家政学部じゃないの?」
「うん。前に冷凍食品使ったときに、こういうのってどういうふうに作るのかなって不思議に思って調べたの。栄養学科とかも考えたんだけど、どちらかと言うと開発とか研究とか、そんな仕事ができたらいいな、なんて……」
「いいと思うわよ。しずちゃん位の歳の子は、なろうと思ったら何にだってなれるんだから」
「何にだって?」
「そうよ」