「メンチとかコロッケとか売り出してからさ、お嬢ちゃんみたいな、さく高の生徒がたくさん来てくれて嬉しいよ」

 他にお客さんがいないこともあり、おじさんはいつもより饒舌だった。ちなみに『さく高』とは、『さくら坂高校』のことだ。
 
「前は売っていなかったんですか?」
「十年くらい前からかな? おじさんの親父が突然言いだして、始めたんだ。それまでは生肉だけで、こういう半加工肉もなかったんだよ」

 おじさんが指さしたのは、牛カルビのタレ付けだった。味がしみ込んでいて、そのまま焼けば美味しく頂ける。

「そのときは『また親父の気まぐれが始まった』って家族も呆れていたんだけど、おかげでお嬢ちゃんみたいな子達もたくさん来てくれるようになったもんなぁ。揚げる前のトンカツとかの半加工品も、会社帰りの働くお母さんに評判がよくて、よく売れるんだよ」
「へえ」
「なんでも、お客様が増えますようにってそこの坂の途中にある神様にお祈りしたら、夢に綺麗な女の子が立って、肉を売る方法を考えろってアドバイスされたらしいんだよ。おかしなことを言うだろう?」
 
 当時のことを思い出したのか、おじさんは懐かしそうに目を細め、ケラケラと笑う。
 一方、私は我が耳を疑った。綺麗な女の子? それは、もしかして、いや、もしかしなくても、さくらのことではなかろうか。なんと、こんなところでも縁をつないでいたとは驚きだ。


「ねえ、さくらって田中精肉店とお客様の縁を繋いだの?」
「さあ、どうだったかの」

 その日もぺろりとメンチカツを食べた(しかも、二つとも食べたのだ!)さくらは、虹色の瞳を瞬くとすまし顔だった。

 身に覚えがなければどういうことか聞き返してきそうなものなのに、それをしてこないところを見ると、さくらが縁を繋いだことは間違いない気がする。
 けれど、さくらはそこのことについて話す気もなさそうなので、私も聞くのをやめた。

 それに、前日の不思議体験。あれは一体何だったのかと再三にわたって追及したけれど、いつも『なんのことだかわからない』とはぐらかされてしまう。あんな体験、さくらがやったとしか思えないんですけど!

 私はふうっと息を吐くと、今日ここを訪れた本題を切り出す。

「私、学校の成績上がったの。一学期より二学期の方がだいぶよかった」
「それはよいことじゃ」
「うん、ありがとう」