名前の順に、山下先生がクラスメイトの名前を呼ぶ。私の名字である『原田』は五十音順でちょうど真ん中位。最初に青木さんが呼ばれ、次が有川くん。だんだんと自分の番が近づいてくるこの瞬間は、いつもドキドキする。

「原田」
「はい」

 返事をして教壇に向かうと、半分に折り曲げた答案用紙を山下先生が差し出す。恐る恐る受け取るタイミングで、山下先生は黒縁の眼鏡を押し上げた。

「原田、今回頑張ったな」
「え? はい」

 とりあえず受け取って、自席に戻るとこっそりと答案用紙を開き、点数を確認した。一〇〇点満点中、七十八点。全員に答案用紙を返却し終えた山下先生は、チョークを持つと黒板に向かう。
 
「今回の平均点は七十三点だ。六〇点以下のやつは、再テスト」

 カツカツと音を鳴らし、黒板に『73』、『60』の文字を書く。教室の一部のクラスメイトからは「えー!」と悲鳴が上がった。前の席に座る夏帆ちゃんが振り返り「雫ちゃん、どうだった?」と聞いてきた。

「大丈夫だったよ」
「私も。でも平均はいかなかったから、危なかった。数学Ⅰが一番問題だったから、これで安心して冬休みに入れるね」

 夏帆ちゃんは苦笑したような、でも安堵したような表情を浮かべる。期末テストが返却された今、残りの登校日もあと僅かだ。


 その日の放課後、私は一人で田中精肉店にメンチカツを買いに行った。

 さくらにお告げを受けてから早五ヶ月。侑希にこれといった恋のアドバイスはできていないが、私の成績は明らかに上がった。
 主に侑希に勉強を教えてもらっているおかげだ。一番苦手な数学も平均点より上だったし、これはお礼でも言わなければならないと思い立ったのだ。

「こんにちはー」
「こんにちは。あ、お嬢ちゃんまた来てくれたんだね」
「はい」

 精肉店のおじさんは、私を見ると柔らかく目を細めた。この五ヶ月、私は定期的にさくらに会いに行っており、その度にメンチカツをお土産に持って行っているのだ。そのため、精肉店のおじさんに顔を覚えられたのだろう。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。──あれ? 二個入っていますよ」
「いつも買ってくれるからサービスだよ」

 おじさんは人の好い笑みを浮かべ、レジ袋ごとメンチカツを差し出す。私は「ありがとうございます」と言って、ありがたくそれを受け取った。