私は言っている意味が分からず、首を傾げた。さくらの言うことは、往々にして哲学じみていて理解が難しいことがある。さくらはこちらを見つめ「──そうじゃのう」と思案する。

「昔、我の元に絵で大成したいと願うものが訪れた。その者は結局、露店で自作の絵を売っていたものが画廊のオーナーに見い出され、絵だけで食べていけるほどになった」
「さくら様、凄いね」

 さすがは縁結びの神様だと、私は感嘆する。さくら様は小さく首を振った。

「否。縁を撒くことは簡単じゃが、それをしっかりと解けぬように結ぶことは我らにも簡単ではない。その者は、『絵で大成したい』という願いの元に、仕事の合間に絵を描き続けた。批評があれば素直に受け入れ、独自性を残しながらも改善する努力をした」

 さくらは言葉を止め、ふと空を見上げる。私も見上げた。絵具を広げたような真っ青な空に、鳥が数羽群れで飛んでいるのが見えた。

「鶏はどんなに努力しても飛べぬ。我らは縁繋ぎの種を撒く。努力すれば目の前の縁が必ず繋がるわけではない。だが、努力しない者に切れない縁が結ばれることはない」
「……はい」

 私はなんだか居たたまれなくなって、俯いた。
 きっと、さくらは間接的に「甘ったれるな」と言っているのだろう。安易にさくらに頼ろうとした自分が、恥ずかしく感じた。

「よいか、雫。固く結ばれた縁とは、それを摑む努力をした者のところに訪れる」
「うん」
「そなたが何かに興味を持った、そのひとつとて、立派な縁なのじゃ。その縁をしっかりと結べるかは、そなたにかかっておる」
「はい」
「わかればよいのじゃ」

 こくりと頷く私を見つめ、さくらは目を細めて微笑んだ。

「ところで雫。縁結びを手伝ってくれぬかの?」
「え? 縁結び?」

 私はきょとんとして、さくらを見つめた。
 さくらに出会ったとき、侑希の縁結びを手伝えと言われ、それには同意した。それ以外にも手伝えということだろうか。

「何をするの?」
「少々話しをすればよいだけじゃ」

 さくらがそう言った瞬間、視界がぐにゃりと歪むのを感じた。
 以前、侑希がさくら坂神社を訪れたのを見たときのような浮遊感に襲われてギュッと目を閉じる。今度はどこに飛ばされたのかと恐る恐る私は目を開けた。

「あれ……?」

 私は周囲を見渡した。