「えー。それならいいじゃん。私なんて、なんにも予定ないよー。花のJKなのにー」

 優衣ちゃんは頬を膨らませると、こちらを見た。

「雫ちゃんは?」
「私も、予定ないよ」
「え? じゃあ、一緒にクリスマスケーキ作らない?」
「いいよ」
「やったぁ! ブッシュ・ド・ノエルにしよう」

 優衣ちゃんは大袈裟に喜んで、「イエーイ」と手を掲げたのでハイタッチする。優衣ちゃんは私と同じくクッキング部なので、料理が好きなのだ。

「でもさ、その前に期末テストだよ」
「いやー! 思い出させないで!」

 美紀ちゃんの一言に、それまでご機嫌だった夏帆ちゃんが両手で頭を抱えて嫌々と首を振る。

「夏帆ちゃん、年明けにコース希望出さなきゃだよ」
「ぐえ」

 優衣ちゃんがすかさず釘をさすと、夏帆ちゃんは首が締まったようなポーズをした。その表情がおかしくて、三人はケラケラと笑う。

 まだまだ高校一年生だけれど、大学受験は確実に近づいてきている。
 さくら坂高校では、二年生からは文系、理系のコース別授業になる。そのため、その希望を年明けには出さなければならない。

 コース希望かぁ……。まだまだ遠い話だと思っていた。
つい先日、入学したばっかりな気がするのに、ときの流れは本当に早い。

 ドリンクの氷をかき混ぜながら、これからのことについて思案する。まだ子供だけれど、もうすぐ大人。そろそろ、色んなことを考え始めてもいい頃だ。



 数日後、私はメンチカツを持ってさくら坂神社を訪れた。いつものように名前を呼びかけると、空気が揺れて綺麗な女の子──さくらが現れる。

「はい、どうぞ」
「かたじけない」

 見た目は完全に小さな女の子なのに、まるで時代劇の武士のような喋り方に思わず笑みが漏れる。しかも、さくらはメンチカツを渡すと両手で持って黙々と食べ始めるので、その姿がとっても可愛いのだ。

「ねえ、さくら様」
「なんじゃ」

 メンチカツをぺろりと平らげたさくらは、こちらをむいて首を傾げる。

「さくら様は大学との縁繋ぎもできるの?」

 さくらはこちらの意図をすぐに察したようで、じっとこちらを見つめるとほうっと息を吐いた。

「雫よ」
「はい」
「以前にも少し話したがのう。縁とは、皆に平等に訪れるものじゃ。だが、それを摑めるかどうかは本人次第なのじゃ」