相変わらずパンフレットを眺めていた侑希は、とあるページで捲る手を止めると、「ケバブ屋はどう? もう昨日行った?」と店舗紹介を指さす。そこには、『ハンドボール部 ケバブ屋』と書かれていた。

「ううん、行ってないよ」
「じゃあ、ここにしようぜ。俺、ケバブ食べたことない。雫は?」
「私も、ない」
「よし、決まり」 

 侑希はにかっと笑うと、パンフレットを丸めて鞄に突っ込む。

 初めて食べるケバブは丸いナンのような袋状のパンを半分に切ったものに、たくさんのキャベツと薄切りトマト、それに牛肉が挟まっていた。

「ケバブって照り焼きバーガーの味なんだな」

 一口齧った侑希がしげしげと手元を眺める。確かに、初めて食べるケバブは甘辛い照り焼きソースのような味がした。
 隣に座る侑希を見ると、先ほどまで整髪料で後ろに撫でつけられていた髪の毛はいつも通り、無造作に下ろされている。けれど、髪を洗ったわけではないので一部は後ろ方向に癖が残っていた。
 
「侑くん、執事姿似合っていたよ」
「え?」

 侑希はパッとこっちを向くと、驚いたような顔で私を見つめる。突然褒められて照れたのか、少しだけ顔が赤らむ。「ありがと」と短く答えると、黙々とケバブを食べ始めた。

 私も、侑くんと写真を撮ればよかったな。

 そんなことを思ったけれど、もう制服姿に戻ってしまったので仕方がない。
 持っていたケバブをガブリと齧る。やっぱりこの味は──。

「テリヤキバーガーだ」
「だな」

 小さな呟きに応えるように、侑希が相槌を打つ。これが本場のケバブと同じ味なのかはわからないけれど、とても美味しかったので今度作ってみようと思った。