「こいつ、手を火傷している」
「あらあら」

 藤井先生は立ち上がると、こちらに歩み寄って私の手を覗き込んだ。

「本当ね。赤くなっているわ」

 保健室の端にある冷蔵庫に向かうと、冷凍庫から凍った保冷剤を取り出す。棚からガーゼを引っ張り出すと、それで保冷剤を包んだ。

「冷やしておきなさい。火傷ってね、甘く見ていると痛い目に合うのよ。皮は剥けていないから大丈夫だとは思うけれど、最低三〇分は握っていて」
「……はい」

 差し出されたガーゼに包まれた保冷剤を受け取り、右手に握る。じんじんしていた指先の痛みが、少し引いたような気がする。
 藤井先生は、「もし水膨れになってペロンって皮が剥けちゃったら、休日でも病院に行くのよ」とアドバイスしてくれた。
 見たところ、水膨れにはなっていないので少しホッとした。

「ありがとうございます」

 お礼を言って、保健室を出るとき侑希も藤井先生に「ありがとうございます」とお辞儀をした。


 ドアを閉めた私は、おずおずと侑希を見上げる。

「侑くん、いつから気付いていたの?」
「ん? オムライス出されたとき。明らかに持ち方がおかしかったもんな。その後も、ずっとおかしいし」
「そっか……」

 まさか、気付かれているなんて思わなかった。
 俯くと、侑希の履きつぶした上履きが目に入る。『1-B 倉沢』と少し癖のある字で書かれた文字は、薄くなって消えかけていた。

「今日来ていた人達ってさ」
「うん?」
「仲いいの?」
「うん。塾で同じクラスなんだ」

 侑希はそう言いながら、表情を綻ばせる。幼稚園からずっと一緒の侑希だけれど、私の知らないこともたくさんあるようだ。そんなことは当たり前なのに、なぜか寂しさを感じる。

「ふーん。お友達、案内してあげなくてよかったの?」
「え? いいだろ。あいつら、好きなように回ると思うよ」

 ──あの中に、侑希が好きな人がいるんじゃないの?

 その言葉は喉元まで出かかったのに、すんでのところで止まってしまう。

「それより、昼食べようぜ。人に出してばっかで、いい加減腹減った」

 鞄から学園祭のパンフレットを取り出すと、侑希はパラパラとそれを捲り始めた。

「誰かと回る約束とかしてないの?」
「してないよ。健太あたりと適当に回ろうと思っていたから」