部屋に戻ってからちょっとした好奇心が湧いてスマホで調べていると、机の脇の窓ガラス越しに青色が動くのが視界の端に映った。目を向ければ、隣に住む侑希がちょうどどこかに出掛けるところのようだ。透明のビニール傘を持ち、イラストがプリントされたTシャツにジーンズ姿で、背中に黒のリュックサックを背負っている。

 塾かな? それとも、友達と遊びに行くのかな?

 雨の中遠ざかる後ろ姿を眺めながら、そんなことを思う。

 今日行くところに、侑希の好きな人がいるのだろうか。
 未だに私は、侑希の好きな人のことをよく知らない。聞いてもいつものらりくらりとはぐらされてしまうのだ。

 なんとなくモヤッとした気持ちを感じ、胸に手を当てて首を傾げる。
 気分転換にスマホで音楽を聴きながら、本でも読むことにした。

    ◇ ◇ ◇

 さくら祭が明後日に迫ったこの日、調理係のリーダーを任されていた私は当日までの準備品を確認していた。

 ケチャップ五本。業務用からあげ二〇袋、オムライス五〇食、クリームシチュー用のルー五箱、配膳用紙皿三〇〇枚、紙コップ五〇〇個、箸にスプーン、紙ナプキン……。
 漏れがないかと確認していると、ノートに影が射した。

「雫ちゃん、ごめん!」

 顔を上げると、眉尻を下げ、手を合わせてごめんなさいのポーズをした夏帆ちゃんがいた。私は突然のことに、目を瞬かせる。

「夏帆ちゃん? どうしたの?」
「あのね、実は──」

 さくら祭は十月の三連休のうち、土日の二日間を使って行われる。
 前々から、この二日間とも同級生で仲の良い夏帆ちゃんと二人で回る約束をしていた。しかし、夏帆ちゃんはさくら祭前々日の今日になって、日曜日は彼氏である松本くんと回りたいと言い出した。なんでも、サッカー部のポップコーン屋さんのシフトを松本くんが変えてもらえたとか。

 両手を合わせたままペコリと頭を下げ、しきりに「ごめん」と謝る夏帆ちゃんに、私は「いいよ、いいよ。気にしないで」と笑いかける。

「雫ちゃん、一緒に回る人いる? もしいなかったら一緒に──」
「大丈夫。適当に誘うよ。みんな駄目なら、クッキング部の友達と回ればいいし」

 私はぶんぶんと両手を胸の前で振った。