「あ、うん。一人で頑張っていて凄いなって思って。たまたまクッキング部で作って持っていたからあげたの」

 私は慌ててもう一度鞄を漁る。一袋に二枚しか入っていないので、少ないと思われたと思ったのだ。すぐにもうひとつ取り出すと、それを差し出す。
 侑希はきょとんとした顔でそれを見つめ、首を傾げた。

「雫の分は?」
「自分の分はちゃんとあるから大丈夫だよ。また作れるし」
「久保田にも二つあげたの?」
「え? 一つだけど?」
「そっか。ありがとうな」

 侑希は差し出されたそれを受け取ると、嬉しそうに笑った。
 よかった、落ち込んだ気分が少しは晴れてくれたようだ。

 最寄りのすみれ台駅からの帰り道、口数か少なかった侑希の機嫌は幾分かよくなったようで、「なあ」と声を掛けてきた。

「雫も、俺の執事姿が見たい?」

 その質問は、どう答えるべきか難しい。

 先ほどの侑希の反応を見る限り、『別に見たくない』というべきなのかもしれない。けれど、本音を言うと、侑希の執事姿を見てみたい気がした。だって、絶対によく似合うから。
少し考えてから、私は言葉を慎重に選びながら口を開く。

「見てみたい気もするけれど、侑くんが嫌なら見なくてもいい。でも、きっと似合うと思うよ。だから、着るならすごく楽しみ」

 侑希は返事することなく数回目を瞬くと、首の後ろをぽりぽりと掻いた。昼間とは打って変わって涼しさの混じる風が吹く。

「ん」

 返事がどうかも分からないような、小さな声が聞こえた。

   ◇ ◇ ◇

 電子レンジに入れてタイマーを回し、待つこと三分。チーンという音とがして扉を開けると、食欲をそそる香りが鼻孔をくすぐる。

「最近の冷凍食品は凄いよねー」

 ミトンを付けた手で中のものを取り出すと、お母さんの口癖を真似ながら被せていたラップを外す。
 お皿の上では、ほっかほっかのオムライスが完成していた。

 冷蔵庫から取り出したケチャップをかけてスプーンで掬うとぱくりと口に含む。

「うーん。美味しい!」

 卵の優しい味わいとケチャップの酸味が混ざり合い、絶妙のコンビネーション。昔の冷凍食品のクオリティについては知らないが、今現在の冷凍食品が凄いという点については同意できた。