「すごい! 手伝うよ。一人じゃ大変でしょ?」
「本当? 助かる。今日、みんな部活あるって逃げられてさ」

 本当に大変だったようで、久保田くんはホッとしたように息を吐く。

「ところで、原田さんはなんでこんな時間まで?」
「私? 私も部活だよ。クッキング部」
「クッキング部なんだ」
「うん。今日はクッキー作ったの。あ、そうだ。たくさんあるからあげるよ」

 私は鞄を漁ると、透明のフィルムに包まれたクッキーを差し出す。たくさん焼いたので、同じものがあと四つある。久保田くんは目をぱちくりとさせてそれを受け取ったが、すぐに嬉しそうに笑った。

「ありがとう。糖分補給する」
「どういたしまして。久保田くんは部活は?」
「俺、陸上部。短距離が得意なんだ」
「へえ」

 そういえば体育の授業のとき、久保田くんはクラスで一番足が速かった気がする。その姿がかっこいいと、クラスメイトの一部の女子が密かに盛り上がっていた。

「部活もあるのに、なおさら大変だよね。じゃあ私、料理のところ考えようか? 誰が調理係になるかわからないから、あんまり難しい料理はやめた方がいいと思うんだよね」
「そっか。時間帯によってクオリティが違うとよくないもんね」

 そんなことを話して盛り上がっていると、ガラリと教室の扉が開いた。

 そちらに目を向けると、侑希が立っていた。こちらを見ると、少し不機嫌そうに眉間に皺が寄る。

「……何やってんの?」
「何って……、さくら祭の準備だよ」
「ふうん」

 私はなぜそんなことを聞くのかと、首を傾げた。
 手に持った鞄から、スポーツタオルが半分飛び出しているところを見ると、侑希も今部活が終わったところだろう。つかつかとこちらに歩み寄ると、こちらを見下ろす。

「今日はもう遅いから明日でいいんじゃない?」
「え? もうそんな時間?」

 久保田くんが侑希の指摘に、慌てて時計を確認する。時刻は午後六時五〇分。さくら坂高校の最終下校時刻まで後十分しかない。

「本当だ」

 いつの間にか思ったより遅くなっていて、私も慌てた。

「雫、帰るぞ」
「あ、うん」

 侑希が椅子に座っている私の片腕を引く。私はとっさに振り返って久保田くんに手を振った。

「久保田くん、また明日」
「またね」