サンダルを履いて外に出ると、侑希が持参した蝋燭にマッチで灯をともす。庭がぼんやりと明るく照らされた。

「はい」

 一本を手渡されたので蝋燭に近づけて火をつけると、青白い光と共にパチパチと暗闇の中に無数の花が咲く。侑希は私の隣にしゃがみこむと、自分の手持ち花火にも火をつけた。

「残念だったね」
「何が?」
「花火大会に誘えなくて」

 おずおずとそう言うと侑希はキョトンとした顔で私を見返してから、首を傾げた。

「そうでもないよ」
「え?」
「手持ち花火も綺麗じゃん。それに、雫が今頃家で『一人だけ花火行けなかった~』って泣きべそかいているかと思ったら、楽しめないし」

 侑希はからかうように、顔を覗き込んでくる。茶色い瞳がいたずらっ子のようにキラキラ光る。

「な、泣かないよ!」
「そう? 怪しいけど?」
「もうっ!」

 軽く叩くと「痛てー」と大袈裟に痛がってふざける。その様子がおかしくて、私も声を出して笑う。
 線香花火の優しい火が辺りを照らす、雨上がりの夏の夜のことだった。