「さようじゃ。さすれば、お主の願いは叶えられる可能性が高まるじゃろう」
 
 女の子は満足げに頷くと、体を引いて一歩後ろへと下がる。

「では、さらばじゃ」
「ちょっと、待てよ!」

 すぐに呼びかけたものの、その子は忽然と姿を消した。

「嘘だろ?」

 状況が理解できず、咄嗟に起き上がって周囲を探した。けれど、とうとうあの子を探し出すことはできなかった。




 ──ピピッ、ピピッ。  

 目覚まし時計の音に、目を覚ます。
 真っ白な天井に丸い蛍光灯の照明器具が一つ、壁沿いに学習机と本棚。目覚めると、いつもと変わらない景色が広がっていた。

 俺は額に手を当てた。

 おかしな夢を見た。
 予想外のお告げだ。

 雫に告白するわけじゃなく、勉強を教えろ?

 以前はよく、雫に勉強を教えていた。けれど、俺がラブラブの彼女がいると嘘をつき始めた頃から雫とは距離ができてしまい、教えることはなくなった。

 ただの夢なのか、本当のお告げなのか。判断がつかないまま、学校へ行く。雫のことを気にしてみて見たけれど、特に変わった様子はなかった。頻繁にチラチラと見てしまったので、何度か目が合った。おかしいと思われていなければいいけれど。

 この日は前日の小テストの返却があった。返却された答案用紙を見ると、十点満点。いつもと変わらない。

「原田」

 数学の伊藤先生が雫の名前を呼ぶ。ぼんやりと雫の様子を眺めていたら、答案を受け取った直後、その表情が曇ったのがわかった。

 あんまりできなかったのかな?

 そんなことを思う。
 話すタイミングを探してお昼休みにさりげなく雫の方を見ていたら、突然顔を上げてこちらを向いた雫とバッチリと目が合った。

 ヤバい、今日は目が合い過ぎだ。さりげなく見ていたことがバレたかもしれない。
 慌てて顔を逸らすと、俺は平静を装って友達と会話を始めた。

 そのまま雫に話しかけるタイミングを見つけることができずに放課後になってしまった。帰りの清掃の後、ゴミ当番の雫が一人でごみを抱えて廊下を歩いてゆくのが見えて、慌てて追いかけた。

「雫、手伝うよ」

 少し声を張って叫ぶと、雫はごみ袋を抱えたまま振り返る。胸にごみ袋を一つ抱き、もう一つは右手にぶら下げている。重いのか、普段なら白い頬が少し紅潮していた。