一緒にいた笹島海斗(ささじまかいと)がそう言うと、誰が可愛いかで友人達が盛り上がり始める。ちなみに、海斗には中学から付き合っている他校の彼女がいる。
 
「原田もよくよく見ると可愛いよな」

 一人が言った名前に、ドキリとした。『原田』は雫の名字だ。
 雫が可愛いのは知っているけど、自分以外の誰かと雫が付き合うなんて想像していなかった。
 急激な焦燥感にかられる。

「でも俺、海斗や侑希みたいに他校の女子がいいな。放課後、駅で待ち合わせとか憧れる。縁結びの神様にでもお願いするしかねーな」

 健太が笑いながらそう言った。
 
「縁結び?」
「さくら坂の途中にあるらしいよ。場所がわかりにくいけど」
「ふーん」

 縁結びの神様か……。

 藁にも縋る思いで、一人でこっそりとそこを訪れたのはその日の放課後のこと。
 縁結びの神様が祀られているというさくら坂神社は、想像以上に小さい神社だった。赤い鳥居と、小さな祠と賽銭箱。それが自分の部屋と変わらないくらいの広さの空間に収まっている。
 鞄を足元に置いてガサゴソと漁り、五円玉を取り出す。

 ──どうか、あの子と両想いになれますように。

 頭に思い浮かべたのはもちろん、雫のことだ。
 帰り際に鞄を持ち上げようとして、まだ蓋を開けていないペットボトルのお茶が入っているのが見えた。願いが叶うようにと、験担ぎにそれをお供え物として祠の前に置く。

「よし」

 満足した俺は、今度こそその場を後にした。



 おかしな夢を見たのはその日の晩のことだった。

 誰かに名前を呼ばれた気がしてふと目を覚ますと、目の前に赤い着物を着た小学校の低学年位の年頃の女の子がいた。ベッドの足元に立ち、こちらをじっと見つめている。

「お主、我に願い事をしたな?」
「へ?」

 見間違えかと思い、パチパチと目を瞬く。けれど、その幻覚は消えなかった。

 なんで? なんでこんなところに、知らない女の子が!?
 しかも、日本人形みたいな着物を着ているし! 

 あり得ない状況に唖然とする俺の元に、女の子はストンと歩み寄る。拳一個分くらいしか離れていないような近距離で目が合った。近くで見ると、その女の子の瞳は虹色の、見たこともないような不思議な色をしていた。

「願いを叶えたくば、思いを寄せる娘に勉強を教えよ」
「べ、勉強?」