勢いよくスピンしたシャープペンシルは、手からするりと抜けて床に落ちると一メートルほど向こうへと転がった。教室の床とシャープペンシルがぶつかるカツンという音が響く。

「お隣さんなのに、雫ちゃんも倉沢くんの彼女さん見たことないの?」
「うーん、ないと思う」

 記憶を反芻(はんすう)したけれど、侑希と女の子が一緒にいるところなんて見たことがない。あの目立つ見た目の侑希がそんな美少女を連れていて、すれ違ったけれど気づかないなんてないだろう。だから、多分見たことないはずだ。

「なーんだ。つまんないなぁ」
「ご近所の幼馴染みなんて、そんなもんだよ。意外と会わないって」

 不満げに口を尖らせた夏帆ちゃんを見て、私は苦笑した。

 侑希と私──原田雫(はらだしずく)は、自宅が隣同士の幼なじみだ。
 幼稚園から中学校まで、全部同じ。

 正直、侑希に彼女ができたと噂で聞いたときは驚いた。だって、私は侑希とは良好な関係を築いていていると思っていたし、侑希と一番仲のよい女子は自分だと勝手に思い込んでいたから。

 それは、中学二年生のある日だった。夏休み明けに学校に行くと、血相を変えたクラスメイトが走り寄ってきた。

「ねえ、雫ちゃん! 倉沢くんの彼女ってどんな人?」
「侑くんの彼女?」

 侑希に彼女なんていないと思うけど。私は意味が分からず首を傾げる。

「なんか、倉沢くんが夏休み中にショッピングモールで会った女の子と付き合い始めたって」
「え? そうなの?」
「そうだよ。雫ちゃん、倉沢くんと仲いいのに聞いてないの?」

 友達は拍子抜けしたような顔をした。
そこからの話の内容はよく覚えていない。ただ、とてもショックを受けたのは覚えている。

家がとなり同士なので、夏休み中も侑希とは何回も顔を合わせる機会があった。それなのに、そんなことは一言も言っていなかった。
いつも一緒だと思っていた侑希がいつの間にか一人で大人の階段を上ってしまったような気がして、置いてきぼりをくらった子供のような寂しさを感じた。
それに、女子では一番仲良しだと思っていたのに、自分は何も知らない間に周りのクラスメイトは当たり前のように知っていて、仲がいいと思い込んでいたのは自分だけだったのだと思い知らされた。