ピローンと持っていたスマホが鳴る。画面を見ると、連絡アプリには雫からメッセージが入っていた。ガバリと起き上がって内容を確認する。

『あああ、ってなにー?』

 その下には頭からハテナマークをたくさん飛ばしたクマのスタンプが押されている。そのメッセージの上には、『ああああああ』とうざいぐらいに繰り替えされた謎のメッセージ。さっき、おでこで連打したものだ。

『打ち間違えた』
『そっか。りょーかい!』

 すぐに了解ポーズをした同じクマのスタンプが押される。

 くっそ、こんなどうでもいいメッセージならいくらでも送れるのに、肝心の『一緒に花火大会に行こうぜ』の十二文字がどうしても送れない。

 俺はスマホの画面のオフにすると、はあっとため息をついた。

 ラブラブの彼女がいるなどと嘘をつき始めたのは、中学二年生の夏だった。

 雫が自分を庇っているのを目撃してから一ヶ月位過ぎた頃、たまたま学校の階段の踊り場で雫が他のクラスの女子に囲まれているのを見かけた。目を伏せる雫の前に立つ女子が泣いていて、それを別の女子が慰めているように見えた。

「ひどいよ、雫ちゃん」
「だって、本人の許可もなく連絡先なんて教えられないよ。知りたかったら本人に聞いてよ」
「聞けないから頼んでいるんじゃん! 意地悪」
「…………」
「家が隣だからって、調子に乗っていてウザい」
 
 目を伏せた雫を畳み掛けるように、別の女子が糾弾する。

「もういい! クラスの男子に聞こう。いこ」

 黙り込む雫に業を煮やしたのか、女子グループの一人がそう言うと雫の肩を押した。倒れはしなかったけれど、雫の華奢な体がよろめく。
 一人残された雫はしばらくそこに立ち尽くしていたけれど、はあっとため息をついてとぼとぼと歩き始めた。
 そして、廊下の先に仲の良い友達を見つけたのか、「めいちゃーん!」と叫んでブンブンと手を振った。肩までのボブが後ろに流れるのが一瞬見え、パタパタと廊下を走る音が聞こえた。

 正直、衝撃だった。

 前回の件で雫が時折、自分を庇ってくれているのは知っていたけれど、こんなところでまで迷惑をかけていたなんて。あとから雫と仲のよい女子に話を聞いたら、これまでも数回、こういうことがあったらしい。雫は一切そういうことを言わないから、全然知らなかった。