「ねえ、侑くん。今度の花火大会、好きな子を誘ってみれば?」
「え?」

 私の提案に、侑希は驚いたような顔をした。

「一緒に花火見るなんて、ロマンチックじゃん。誘ってみたら?」

 侑希が好きな人が誰なのかは知らない。けれど、未だに侑希が他校の彼女と別れたことを、学校で殆ど誰にも言っていないところをみると、さくら坂高校の人ではない気がした。
 となると、相手は同じ塾の女の子とかだろうか。
 とにかく、あまり会う機会のないその子と親しくなる絶好のチャンスだと思ったのだ。それに、侑希みたいな男の子に誘われて嫌だと感じる子はそんなにいないと思う。

「花火大会? ──うん、誘ってみようかな」
「うん、頑張れ!」

 私は肘を折って両手を顔の横に持ってくると、拳を握って頑張れのポーズをした。笑顔で見上げると、侑希が釣られるようにくすりと笑う。

 ──よし! 頑張れ!

 心の中で精一杯のエールを送った。

 
 ◆ ◆ ◆


 画面をタップして書いていた文字列を読み返しては消す。さっきから、一文字も進まない。
 俺はスマホの画面を睨みつつ、既に小一時間以上は苦悩していた。

 ──好きな子を誘ってみれば?

 幼なじみの原田雫と一緒に図書館に勉強に行き、そう言われたのは先週の金曜日のことだ。確かに花火大会に好きな子と二人で行けたら最高だ。
 問題は……俺の好きな子が、そう提案してきた原田雫にほかならないことだ。
 
『花火大会、一緒に行こうぜ!』では、好きな子はどうしたのかと訝しがられてしまうだろうか。
『誘ったけど駄目だったから、よかったらどう?』ではどうだろう。いや、これでは自分が雫を駄目だったときの代打のように扱っていると思われてしまうから却下。

 では、どうすれば?

「あー。わっかんねぇ」

 こつんとスマホの画面におでこを当てて項垂れる。

 そもそも、なんでこんなにこじれてしまったのだろう。最初から雫に『好きだ!』と一言いえれば、今頃は晴れて恋人同士になれていた『かも』しれないのに。あくまで『かも』だが。
 しかし、今このタイミングで告白したのでは、雫からすぐに好きな相手がころころと変わる軽い男だと思われるだけだろう。
 最悪、絶交されるかもしれない。それは絶対に避けたかった。