なんか、また侑希が自分の一歩先に行ってしまった。もう、リレーで言ったらトラック半周位の差がついている気がする。

「ここさ、これをこうやって因数分解してから(a+b)をXに置き換えるんだよ。そうするとよく見る二次方程式になって解けるだろ?」

 早速行き詰ってペンが進まなくなると、侑希がすかさず手助けしてくれた。

 おお、そうか。そうやって解くのか。
 授業でやった気もするけれど、よく憶えていない。

「やった! できた!」

 手取り足取り教えてもらいながら、なんとか解き終える。満足感に浸っていると、今書いたばかりのノートを捲(めく)られて、つんつんと侑希に腕を突っつかれた。

「では雫先生。この問題の解き方を僕に教えてください」
「雫先生? 僕?」

 らしくない言い方に怪訝な表情を浮かべると、侑希はニヤッと笑う。

 すぐにピンときた。
 勉強を教えてくれると言ってくれた日に、侑希は『人に教える過程でわからないところがクリアになる』と言った。それを実地でやらせようとしているに違いない。

「よろしい。任せなさい。えっと、まずここを──」

 今やったばかりだから余裕でしょ、と思った。
 先ほど侑希がしてくれたのと同じように説明してゆく。
 しかし、すぐ私は言葉を詰まらせた。

「あれ……?」

 おかしい。さっきは上手くできたのにと眉を寄せていると、侑希がヒントを出すようにトントンとノートの式の一部を叩く。

「あ、そっか」

 すぐに自分の間違いに気が付いて、最初から説明をしなおす。今度は最後まで説明できた。

「正解。できるようになったじゃん」

 侑希がにかっと歯を見せて笑い、親指を立てる。

「うん、ありがとう」

 嬉しくなった私も笑顔を返す。たった一問できたなのだけど、こうして褒めてもらえると、とても嬉しい。

「よし。じゃあ、次は……」

 侑希は私のノートをパラパラと捲り、苦手な問題を確認する。侑希先生のおかげか、翌週の数学の小テストは十点満点中七点を取ることができた。

    ◇ ◇ ◇

 毎日のように通い慣れたさくら坂。

 いつもはまっすぐに道を進むけれど、今日は記憶を頼りに角を曲がる。右手に持ったコンビニのレジ袋が制服のスカートに当たってカサリと鳴る。
 もう一度角を曲がり、目的の場所を見つけた私はまっすぐにそこに歩み寄った。