問題は中学に入ってから。
 早熟な一部のクラスメイト達は特定の異性と『付き合う』ようになった。その頃から現れるようになったのが、「好きです。私と付き合って下さい」という女の子。
 正直、付き合って下さいと言われても、ピンとこない。しかも、そのうち半分近くは殆ど言葉も交わしたことがない子だった。

 だから、いつも答えは同じ。

「ごめん。悪いけど……」
 
 何人かそれを繰り返し、いつからか『モテるから調子に乗っている』と陰口をたたかれるようになった。

 いいたい奴には言わせておけばいい。

 そう思っていた考えを改めたのは、中学二年生になってしばらくした頃。
 下校時に教室に忘れ物をしたことに気付き、友達には先に行ってもらって一人で教室に戻った。教室の扉を開こうとしたら、女子たちの会話が聞こえてきた。

「倉沢ってさ、よくよく見るとたいしたことないよね」
「うん。それなのに鼻にかけて調子に乗ってて、見てて痛い」

 そして、キャハハっと笑う高い声。

 廊下の窓から教室をそっと覗くと、クラスメイトの女子が二人で喋っていた。そのうちの一人は最近付き合ってほしいと告白してきて断った子を紹介してきた子だった。しかも、告白してきた子は彼女達の同小から私立中学に行ったとかいう子で、会ったこともない子だった。

 ──またか……。

 そう思って目を伏せてから、どこかで時間を潰そうとそこから立ち去ろうとしたとき、少し怒ったような声がした。

「侑くんは調子になんて、乗ってないよ」

 ハッとして振り返ると、幼なじみの雫が二人組の女子の前で仁王立ちしているのが教室の扉についた窓越しに見えた。

「侑くんは調子になんて、乗ってない。知りもしないくせに、いい加減なこと言わないで」

 この位置からでは二人組の女子の表情は確認できなかったけれど、突然のことに驚いているのは間違いないだろう。

「はあ? じゃあ、原田さんは何か知っているわけ?」

 けんか腰の口調でそう返された雫は、怯えて泣き出すわけでもなく、にんまりと口の端を上げる。

「知っているよ」
「は?」
「知っているよ。だって私、幼稚園から一緒だもん。侑くんはそんなことで、調子に乗ったりしない。自分の見た目を、鼻に掛けたりもしない。少なくとも、あなた達よりは侑くんのこと、知っているよ」