「いいよ。だって約束しただろ? それに、勉強を人に教えるのって凄く教える方の勉強になるし」
「教える方の?」
「うん。きちんとわかっていないと教えられないだろ? なんとなくわかっているだけのつもりだった部分がクリアになるっていうか」
「ふーん」

 横を歩く侑希をそっと窺い見る。
 週二回と土曜日もしっかりと部活に参加していて、その上トップレベルの成績を取るなんてすごいなぁって思う。きっと、家に帰ってから勉強しているのだろう。
 そんなことを考えていると、侑希が再び口を開いた。

「雫ってさ、クッキング部だっけ?」
「うん、そうだよ」
「今日はなにつくったの?」
「今日はね、ミニトマトのコンソメジュレ寄せ」
「ミニトマトの……?」
「コンソメジュレ寄せ。今日のレシピ、私が用意したんだ」
「ふーん」

 どんな料理なのか想像がつかないようで、侑希の形の良い眉がわずか寄る。 お喋りをしながら帰ると、あっという間に自宅まで到着してしまった。

「じゃあな」
「うん、またね」

 自宅の前で手を振って別れ、門を開けようとしたところで肝心なことを思い出した。

「侑くん!」

 同じく自宅の門を開けようとしていた侑希は私の呼びかけに気付くと上げかけていた手を下ろし、こちらを見た。

「なに?」
「あのね。好きな子と両想いになる方法なんだけど、もっとお互いのことを知るといいと思う!」
「お互いのこと?」

 侑希が怪訝な表情で首を傾げる。
 
「うん。お互いのことを知って、一緒にいる時間が増えれば、好きになってもらえるチャンスも増えるかな、なーんて思ったり……」

 言葉尻に行くにつれてだんだん声が小さくなってしまうのは仕方がないと思うの。だって、こっちは恋愛経験ゼロだ。初心者ですらない、未経験者なのだから。

 二人の間に沈黙が流れる。
 なんか、自分はとてつもなくおかしなアドバイスをしてしまったかもしれないと不安がこみ上げてきた。

「一緒にいる時間が増えれば……」

 侑希が小さく呟く。

「うん、わかった。俺、頑張ってみるよ」

 片手を挙げると、「ありがとな」と言って侑希は笑った。私はほっとして胸を撫で下ろす。

「うん。頑張れ!」

 幼馴染の侑希はとってもいい男だ。格好いいのはもちろん、運動もできるし、努力家だし、根が優しいのだ。

 ──きっと、うまくいくよ。