さくら坂の縁結び ~今宵、空に舞うは恋の花~
本文

 毎日のように通い慣れたさくら坂。

 いつもはまっすぐに道を進むけれど、今日は記憶を頼りに角を曲がる。右手に持ったコンビニのレジ袋が制服のスカートに当たってカサリと鳴る。
 もう一度角を曲がり、目的の場所を見つけた雫はまっすぐにそこに歩み寄った。

「さーくーらーさーまー!」

 赤い鳥居をくぐると、小さな祠に向かって呼び掛ける。不意に空気がふわりと揺れた気がした。

「なにか用かのう?」

 さっきまでなにもなかった参道に忽然と現れたのは赤い着物を着た綺麗な女の子だ。黒く艶やかな髪の毛は腰までのストレートロング。初めて会った日にとても綺麗だと感じた瞳は、今日も虹色に煌(きら)めいて見えた。

 今日、雫はさくらに会えると確信をもってここへ来たわけではなかった。だから、呼びかけてこうして現れてくれたことにホッとした。

「うん。さくら様が言うとおり、侑くんの恋愛成就のお手伝いをしようと思うんだけど、友達から聞いた『お互いのことをもっと知る』くらいしかアドバイスができないの。こんなので平気かな?」
「よきかな、よきかな」

 さくらは十歳にも満たないようにしか見えない見た目に反し、まるで昔話に出てくるおばあちゃんのような話し方をする。雫はその見た目とのギャップに、思わず笑みを漏らした。

「本当はもっと協力できたらいいのだけど」
「人の縁など、なるようになるものじゃ」

 なるようになる、その方向性を変えたくて皆がさくらのところに来るんだと思うんだけど? という言葉はすんでのところで呑み込んだ。

「我に願っても、成就するか否かは結局、本人次第なのじゃ。例えば、資格試験合格を願われても、本人が全く勉強しなければ、我にもなんともしがたい」

 さくらはが付け加えるように、そう言った。

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