翌日のお昼休み。
 私は夏帆ちゃんに相談したいことがあるからと言って、屋上に誘った。

 季節は夏まっさかり。
 屋上の扉を開けた途端に太陽の日差しが容赦なく照りつける。じっとしているだけで汗が吹き出し、制服のシャツがまとわりつく。ミーン、ミーンと響き渡るセミの大合唱が暑さを増長させた。
 それでも、一部の日陰になっている辺りは風があって過ごしやすい。

「で、相談ってなーに?」

 お弁当を食べていた夏帆ちゃんが、お箸を咥えたままちょこんと首を傾げる。もう食事を終えた生徒たちが遊んでいるのか、校庭の方向からは楽しそうな声が時々漏れ聞こえてきた。

「それなんだけどね」

 私は何から話すべきか考えあぐねいて、結局、さくらのことには触れずに知りたいことだけを聞くことにした。話しても、信じてもらえないかもしれないし。

「誰かと付き合うときって、どうすればいいのかな?」

 おずおずとそう切り出した瞬間、夏帆ちゃんの目が大きく見開く。

「え? 雫ちゃん、好きな人ができたの? 誰? だれ!?」

 夏帆ちゃんは興奮ぎみに身を乗り出す。これは誤解されていると感じ、私は慌てて両手を胸の前でブンブンと振った。

「違うの! 私じゃないの! 友達の話!」
「友達?」
「うん。友達に好きな人がいるらしくて、応援する、協力するって約束したの」
「ふうん。なーんだ」

 夏帆ちゃんは私のことではないと知るとあからさまにがっかりしたように口を尖らせる。そして、体を元の位置に戻した。

 昨日、あの約束をした後に何をしたかと言うと、侑希に一緒に帰ろうと誘われてとりあえず二人並んで帰った。自宅がお隣り同士なので、最寄り駅はもちろんのこと、自宅の門を開く直前まで方向もずっと一緒。
 その間、侑希は特に好きな人のことを話してくれるわけでもなく、バスケ部の試合がどうだったとか、近所のスーパーの野菜の鮮度が最近悪いって母親が文句を言っているとか、他愛のない話題で盛り上がっただけだった。

「付き合うには、両想いになるしかないんじゃない?」

 箸を持ったままの夏帆ちゃんが、宙を眺めながらそう言った。

 おお! それはまさに侑希が望んでいた願い事だ。
 そうか。『両想い』は付き合う前段階なんだね。

「両想いになるにはどうしたらいいと思う?」