「はは、そうだね。きみくらいのときから、ずっと片想いしていたから」

 こちらに向いた茶色い瞳がにこりと細まる。少し照れたように頬を掻く仕草は、今とちっとも変わらない。あんまり嬉しそうに笑うから、泣きたい気分になった。

 幼稚園からずっと一緒なんだもの。見間違える筈がない。
 よかったね、と心の中で祝福を贈る。
 
 私はね、侑希の笑った顔が好き。こんなに幸せそうに笑うなら、背中を押すぐらい、お安い御用だよ。全力で応援してあげる。

だから、一つだけ許してほしい。今夜だけは、泣いてもいいかな。

    ◇ ◇ ◇

 一年で最も日が長いこの時期だけれど、七時近くなるとさすがに薄暗くなってくる。水色だった空は、沈む太陽に照らされて茜色に色づいていた。
あと十五分もすれば、暗闇に包まれるだろう。
 親しい人達で宴会でもしているのだろうか。風に乗って、遠くからは人々の賑やかな歓声が聞こえる。
 
 その時、背後のすぐ近くからカサリと音がした。

「夏帆ちゃん、早かったね」

 そう言って振り返った私は、はっと息を呑んだ。

「侑くん……」

 そこには、Tシャツとカーゴパンツ姿の侑希がいた。驚いて、私はその場で立ち上がる。

「どうしたの?」

 侑希は少し緊張したような、強張った顔をしてこちらを見つめていた。
 弱い風が吹き、足元の草を優しく揺らす。普段の侑希らしからぬ表情に、私はどうしたのかと訝しんだ。

「侑くん──」

 ──好きな子を誘ったんじゃないの? 気持ちを伝えられた? 

 そう聞こうと思ったけれど、その言葉は喉元で止まった。先に侑希が口を開いたのだ。

「好きだ」
「え?」

 遠くの喧騒、草の揺れるさざめきに混じったその言葉に、聞き間違えかと思った。

 目の前の侑希は、真剣な表情でこちらを見つめている。茶色い髪に、薄茶色の瞳。彫りが深くて、相変わらず憎らしいくらい綺麗な顔。
 今に「信じたのかよ!」とおちゃらけるのと思ったのに、それすらなくこちらを見つめている。私は、目を見開き、こくんと唾を呑んだ。

「雫が好きだ。俺と付き合って下さい」

 呆然として動けない私に、侑希はもう一度、はっきりとそう言った。少し強張った表情のまま、こちらをまっすぐに見つめている。

「……なんで? 好きな子がいるんでしょ?」