「夏帆ちゃん、せっかくこんなに可愛くしてきたのに、松本くんに見せられなくて残念だね。私、スマホで写真撮ってあげようか?」
「へ?」

 じゃがバターに集中していた夏帆ちゃんはきょとんとして顔を上げたが、すぐにふわりと笑った。

「大丈夫だよー。でも、せっかく可愛くしてきたから雫ちゃんと二人で撮りたい!」

 二人で顔を寄せて自撮りする。距離が近いから胸から上しか撮れなかったけれど、可愛くしてもらった姿が記念に残って嬉しい。

 河川沿いの出店があるエリアを抜けると、だいぶ人通りは減った。川の方へ歩き、私と夏帆ちゃんは持参したレジャーシートを河川敷に敷く。

「今、何時かな?」

 夏帆ちゃんがスマホを探しながら呟いたので、「六時三〇分だよ」と教えてあげた。
 花火の打ち上げは七時から。まだ時間に余裕はある。

「雫ちゃん。私、出店に焼きそば買いに行ってきてもいい?」
「あ、私も食べたいな」
「じゃあ、まとめて買ってくるよ。待っていて」
「うん、ありがとう」

 夏帆ちゃんが財布とスマホの入った巾着を持って、パタパタと出店の方へと歩いてゆく。その後ろ姿を見送ってから、私はレジャーシートに座って空を見上げた。
 脳裏には、さくらに言われて不思議な体験をしたあの日のことが蘇る。

    ◇ ◇ ◇

 ギュッと瞑った目を恐る恐る開き、私は目を瞬いた。

「ここ……」

地面が夕焼けで染まる中、誰もいないブランコが風に揺れていた。砂場には今日の昼間に子供が作ったのか、掘りかけのトンネルの穴が開いた小さなお山が見える。
何年も来ていないけど、ここはうちの近くにある公園だ。

「なんでこんなところに……」

 私は戸惑って辺りを見渡した。夕暮れが近い今の時間、遊んでいる子供は一人もいない。

──雫よ。縁結びの手伝いじゃ。また、ちょっと話してきてくれ。

 突如ベッドの足元に現れたさくらにそう言われたのは先ほどのこと。
そのとき、私は咄嗟に断ろうとして声を詰まらせた。正直、辛いのだ。侑希の縁結びの願いが叶ったとき、それは即ち、私が完全に失恋するときだ。
そうなったら、多分もう侑希と今の関係を続けることは難しいと思った。
 
 どうしてこんな場所に連れてこられたのかと困惑しながらも家に帰ろうと歩き出したそのとき、公園の入り口から一匹の柴犬が走ってくるのが見えた。