五時過ぎに待ち合わせの駅に到着すると、夏帆ちゃんは既にそこにいた。一緒に買いに行った、ピンク色に生地に黄色の向日葵が咲く、可愛らしい浴衣を着ている。帯も白いフリルが付いたフェミニンなデザインだ。

「雫ちゃん、こっちこっち!」

 夏帆ちゃんは階段を下りてくる私に気付くと、改札口の向こうからぶんぶんと片手を振った。人混みの中でも鮮やかなピンクの生地は人目を引く。
 私はすぐに夏帆ちゃんの元へ駆け寄って行く。

「やっぱり結構人多いね。どこから見ようか? やっぱり河川敷かな」
「そうだね。広いから満席ってことはないでしょ。行ってみようよ。出店も見たいし」
「だね」

 人の波に乗って、夏帆ちゃんと一緒に歩き始める。
 小さな子供を連れた家族連れ、自分と同じような女友達のグループ、趣味の集まりだろうか、年齢も性別も様々な人達──たくさんの人達が楽しげ会話しながら歩いている。その中にはやっぱりカップルも多かった。

 ──侑くんも今頃、デートかな。もう好きだって伝えたかな。

 そんなことが脳裏に浮かんで、ちょっとしんみりとして慌てて頭を振った。せっかく夏帆ちゃんと来たのだから、今の時間を楽しみたい。
 それにほら。これは私が望んだことでしょう?
 隣を歩く夏帆ちゃんは縁日を興味深げに覗いていた。スーパーボールすくいの前では、小学生と幼稚園生くらいの子供たちが人垣を作っている。

 河川敷沿いの通りの両側には出店が建ち並んでいるが、その向こう側──河川敷にはすでに多くの人たちが場所取りのレジャーシートを広げ始めているのが見えた。中には、大きなブルーシートを広げた宴会をしているグループもいた。

 ──祭りの夜は宴会じゃ。
 
 以前、さくらが言っていた言葉を再び思い出した。

 ──我も機嫌が上がるから、たくさんの縁が結ばれる。

 侑希の縁も、無事に結ばれるだろうか。
どうか、結ばれますように。
 どうせ失恋するのだから、侑希には誰かが付け入る隙がないくらい、めちゃくちゃ幸せになってほしいと思う。そして笑顔で一言、「おめでとう!」って伝えられれば、私もなんの未練もなく次に行ける気がした。

 夏帆ちゃんは途中で立ち止まると、じゃがバターを購入した。ふうふうと息を吹きかけて冷ましている。揚げたてで熱々のジャガイモと格闘しながら食べている姿が可愛らしい。