真っ赤な生地に桜の染め物がされた着物を着た、綺麗な女の子──さくらだ。さくらは遠くからこちらを見ていたが、くるりと向きを変えると姿を消した。
 侑希がさくらを見たのではないかとドキドキしながら横を向いたが、侑希はいつもと変わらない表情をしている。

 よかった。見られてはいないようだ。

 そうだ。そう言えば、願いを叶えたかったら、侑希の恋の成就のお手伝いをしろって言っていたなと思い出す。

 でも、どうやって? 

 そもそも、彼女がいるのだから既に恋は成就しているはずだ。あの神様、可愛い顔をしていながら、とんでもない難問を突き付けてきたものだ。どう話を切り出せばいいものかと思案していると、沈黙を破るように侑希が声を発した。
  
「なあ、雫。お前昨日の数学の小テストでさ──」
「へ!? 待って! お願い、言わないで!」

 突然の話題にぎょっとして、思わず立ち止まって大きな声を上げてしまった。

 頭ひとつ分も背の高い侑希の口を慌て押さえる。

 今日のお昼に返却された昨日受けた数学の小テストだが、なんと十点満点中四点しか取れていなかった。私は数学が苦手なのだ。けれど、なんで侑希はそれを知っているのだろう? まさか、先生が返すときにチラ見えした!? 

 やだー、恥ずかしすぎる。

 多分、真っ赤になったであろう私の顔に釣られるように、侑希の顔まで赤くなる。

「数学、苦手なの」

 照れを隠すように口を尖らせると、私はくるりと向きを変える。背後から、侑希の視線を感じたけれど、構わずにごみ捨て場へとすたすたと歩き始めた。

 学校のごみ捨て場は校舎の裏にある。屋根付きの小屋のようなところには山積みになったゴミ袋。その上に、侑希は器用に更に二つの袋を積んだ。そして、パンパンっと手をはたいてこちらを振り返る。

「手伝ってくれてありがとう」
「別にいいよ。──俺さ、今度から勉強教えてやろうか? 放課後に」
「え?」

 思わぬ提案に、私は目をしばたたかせた。

 侑希はとても勉強ができる。さくら坂高校は県内でもそこそこ有名な進学校だけれども、侑希はそのなかでも学年トップテンに入るの成績を入学早々の実力診断テストで取っていた。

 勉強を教えて貰えるのは正直とても助かる。けど──。

「駄目でしょ」
「なんで?」