普段、私達は夜の八時までさつき台図書館で勉強してから帰る。今はまだ七時だから、時間は大丈夫だ。けれど、なぜそんなことを聞くのだろう。不思議に思って私に侑希を見上げた。

「小学校、行ってみない?」
「小学校?」
「うん。今ちょうどビオトープで飼っている蛍が見られるって杏奈(あんな)が言っていたんだ」
「え? 本当? 行きたい」

 杏奈とは、小学六年生の侑希の妹の名前だ。私と侑希の通っていた小学校には、校舎の裏手に立派なビオトープがあった。そこで人工的に蛍を飼っていて、毎年六月頃になるとふわりふわりと幻想的に光が飛び交う景色が見られる。
私も小学生の頃は毎年見に行っていた。


 久しぶりに訪れる小学校の校門は、私が通っていたころとなんら変わらない佇まいだった。

「わあ、なつかしい!」
「全然来てない?」
「来てないよ。侑くんは来るの?」
「うん。杏奈の運動会とか」
「そっか」

 蛍の観覧をする在校生や近隣の住人のために、夜だけれども小学校の校門は開放されていた。
 侑希とお喋りしながらも、四年ぶりに訪れる小学校に懐かしさがこみ上げる。近所なのだけれど、卒業してしまうと全く行かなくなった。

 人の流れに乗って校庭を抜け、校舎の裏手へと向かう。多くの人が集まっているのか、辺りは少しさざめいていた。

「あそこ、光った」

 興奮したような子供の声が聞こえて目を向けると、黄色の光がふわりと動くのが見えた。よく目を凝らすと、他の場所でもチラホラと光っている。数は少ないけれど、真っ暗な中に浮かぶ優しい光はとても美しく思わず見入ってしまう。

「昔さ、蛍に興奮してビオトープに落ちた男子がいたよね?」
「いたいた。あれ誰だっけ? 確か──」

 蛍を見ながら、昔話に花が咲く。あれは確か、小学校の高学年のときだった。クラスのみんなで待ち合わせして蛍を見に来て、そのうちの一人が興奮してビオトープの水場に滑り落ちたのだ。
 ビオトープの通路は人ひとりしか通れないくらい狭い。真っ暗だったから、大騒ぎになったのを覚えている。

「雫、落ちるなよ」
「落ちないよ」

 小学生男子じゃあるまいし、失礼な。
 そう思っていた矢先、足元の石に躓いて転びそうになる。少しよろめいた私に気が付いた侑希は、後ろを振り返った。

「ほら、言わんこっちゃない」