相変わらず綺麗な顔だなぁ。高い鼻の付け根とか、真っ白な肌とか、本当に羨ましい。

「雫、違うよ。ここは、mとnに内分する点だから──」

 いつものように数学の問題に詰まっていると、シャープペンシルが動いていないことに気付いた侑希がすかさず説明してくれる。
 不意に近くなる距離に、胸がドキンと跳ねた。その距離感が恥ずかしくて、思わず体を反らせてしまう。

「どうしたの?」

 急に不自然に距離を取ろうとした私を、侑希が困惑気味に見つめる。
 
「え? なんでもない」
「そう? じゃあ──」

 慌てて表情を取り繕い、体勢を元に戻す。侑希は怪訝な表情をしたものの、すぐに気を取り直して説明を再開した。

 一度好きだと自覚すると、今までどうやって接してきたのかがわからなくなる。隣に座る侑希の一挙手一投足が気になって、息をするのも忘れそうになる。
 よく今まで普通に勉強できていたものだと、自分の神経の図太さに半ば呆れてしまう。本当に、みんなどうやってこの気持ちを落ち着けるのだろうかと、不思議でならない。

 説明を終えた侑希は、体を正面に戻すと目の前の問題集をパタンと閉じた。

「今日、終わりにしようか?」
「え?」
「なんか雫、集中してないじゃん」
「う、うん」

 集中できていないのは紛れもない事実で、言い返す余地もない。俯く私の隣で、侑希はスマホを見て時間を確認した。

「まだ七時前か……」

 小さく呟く声が聞こえた。ここに来たのが六時頃なので、一時間も経っていない。自分の不甲斐なさを指摘されているようで耳が痛い。
 侑希が机に広がっている教科書やノートをしまい始めたのを見て、私も慌てて片付け始めた。

「ごめん」
「いいよ。そんな日もあるよな」

 侑希は笑ってそう言うと、鞄を肩に掛ける。帰り際、図書館の入り口の掲示板には花火大会のお報せが出ていた。
  
「今年は晴れるといいね」
「あ、もうそんな季節かー」

 私に釣られるようにそのお報せを見た侑希が、誰に言うでもなく呟く。
 去年、最初にここに来た頃にもこのお報せが出ていた。もう、この関係が始まって一年が経とうとしているということだ。

「雫。今日この後まだ時間は平気?」
「今日? 平気だけど」