傾いた太陽には心から感謝。だって、赤らんだ頬を夕日のせいにできるから。

あ、変な癖がついてる。

 少しだけ襟足の伸びた茶色い髪は、つけっぱなしにしていたハチマキのせいでおかしな場所で跳ねていた。それがなんだかおかしくて、思わずくすっと笑みを漏らす。すると、侑希は目をみはり、顔を背ける。オレンジ色の陽を浴びた侑希の頬も赤く染まっていた。

「帰るか」

 侑希は自分と私の鞄を持つと、こちらを振り返り「歩けるか?」と聞いてきた。

「うん」

 さっき保健室に行ったお陰で、足の痛みはだいぶ引いていた。侑希は私に歩調を合わせるように、廊下をゆっくりと歩き出す。

「侑くん、迷惑かけてごめんね」

 茜色に染まる廊下を歩きながらおずおずとそう告げると、侑希はきょとんとした顔をしてから、にかっと笑う。

「なーに言ってんだよ。雫のくせにしおらしくて気味悪い」
「気味悪いって!」

 頬を膨らませた私がぽすんと腕を叩くと、侑希はおどけたようにけらけら笑う。たぶん、私が気を遣わないようにそう言ってくれている気がした。私が黙り込むと、少し前を歩く侑希がちらっとこちらを振り返る。

「俺が怪我したときはさ、雫が手伝ってくれただろ? だから、おあいこ」
「怪我したとき?」
「うん、中学のとき。雫が無理やり病院だって連れて行ってくれただろ。それに、鞄も持ってくれたし」
「ああ、そうだったね」

 懐かしいな、と思う。
 中三の夏休み、バスケ部の部活中に侑希は手首を怪我した。そのとき、なぜか侑希は強がって「たいして痛くない」と病院に行こうとしなかった。
けど、その日たまたま部活で学校にいた私は侑希の表情を見て絶対に病院に行った方がいいと思い、半ば無理やり近所の整形外科に連れて行った。
 結構しっかりひびが入っていたから、よくあれで「たいして痛くない」なんて言えたものだと思う。

「侑くんってさ、結構格好つけたがりだよね」
「はあ?」
「絶対痛いくせに、『痛くない』って言い張っていたなぁと思って」
「くそっ、余計な事を思い出させた」

 しまったと言いたげに、侑希が顔をしかめる。そんな表情の変化がなんだか可愛く見えて、私は思わずくすくすと笑う。すると、侑希は不貞腐れたように口を尖らせた。