「雫ちゃん、さっきから百面相してどうしたの? なんか今日、ずっと変だよ?」

 訝しむような声がして顔を上げると、目の前に座る夏帆ちゃんがこてんと首を傾げている。黒目が大きなその瞳は、不思議なものでも見るような表情をしていた。

「あ、ごめん。なんか変な夢をみてさ」
「夢?」
「うん。なんでもないから気にしないで」

 私は取り繕ったような笑みを浮かべると、あははっと笑ってやり過ごす。

 そう。今日は朝からずっと落ち着かなかった。
 だって、あんなおかしな夢を見るなんて。

 あの侑希が──。

 そうして私の思考は再び無限ループへと導かれる。チラリと侑希の方を見るとなぜかバッチリと目が合い、慌てて視線を逸らした。



 そんな私の朝からの心の葛藤は、侑希本人によってあっさりと終わらされた。

 放課後、今週のごみ当番だった私はごみ捨てをしようとごみ袋を抱えていた。
 美術の授業で新聞紙をたくさん使ったことあり、ごみ袋二つがパンパンだ。ついていないことに、もう一人いるはずのごみ当番の生徒が風邪でお休みなので、今日は一人で捨てないといけない。

「雫、手伝うよ」

 聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、侑希がパタパタとこちらに走って来るところだった。
 おかしな夢のこともあり、咄嗟に目を逸らしてしまう。侑希はそんな私の態度に気付くことなく、持っていたごみ袋のうち、大きい方をひょいと取った。

「大丈夫だよ。かさ張っているけど中身は丸めた新聞紙だから、そんなに重くないし。持てるよ?」
「いいんだよ。俺、女子がごみ袋を必死に運んで顔を赤くしているのに素通りするような鬼畜じゃないし」
「赤くしてないし」
「していたよ」

 むきになって言い返すと、侑希はからかうようにケラケラと笑う。
 こんなふうにお喋りするの、いつ以来だろう。私はごみ袋を取り返すのを諦め、大人しく手伝って貰うことにした。

 並んで歩きながら、ちらりと横を窺い見る。さらりとした茶色い髪が歩く度に揺れている。相変わらず、綺麗な顔立ちをしているなぁと思う。その表情は、いつもと変わらないように見えた。

 うーん。やっぱり、夢?
 わからない。うん、とにかくわからない。

 校舎の裏手まで辿り着いたとき、視界の端に赤色のものが蠢く姿が映った。ぱっとそちらを見た私はギョッとした。

昨日の!