次に私たちが向かったのはオーガニックスーパーだった。今夜アメリカに発つ人が、スーパーで何を買うのだろうか。不思議に思っていれば、ユージさんは陳列されている生姜の前で立ち止まり、ひとつひとつを手に取りながらううんと吟味しだした。

「どれがいいと思う?」
「色が綺麗なやつがいいと思いますよ。あと香りがいいやつとか?」

 そうやってひとつを手にとって鼻に近づけると、ユージさんも同じようにひとつを鼻に近づける。ふたりですんと生姜の香りを嗅ごうとした瞬間に目があって、その滑稽さに思わず吹き出してしまう。

「売り物匂い嗅ぐとかだめでしょ」
「まだ嗅ぐ前だったからセーフです!」
「とりあえずこの2つは俺がお買い上げするから」

 そうやって私の手から生姜を取り上げると、カゴへと入れる。それに続け、いくつもの生姜をカゴに入れていった。

「何を作るんですか?」
「生姜スープ」

 その言葉を聞いたときにわたしは悟った。ラジオネーム犬見沢さんが教えてくれた生姜スープ。レシピ通りに作って、それをお供にエントリーシートを書いていた自分を思い出す。ユージさんも向こうでこのスープを何度も作ったのかもしれない。だけど日本の生姜でつくるスープとは同じ味が出せなくて、そして今日、こうやって向こうで作る分の生姜を買いに来たのだ。

 ──それだけじゃない。ユージさんは今日、リスナーたちとの時間を過ごしているのだ。その後の彼の行動は、その考えを確信に近づけていった。リスナーさんがおすすめしていた小説を本屋で購入し、別のリスナーさんが話題に出していた話題のスイーツを楽しんだ。また他のリスナーさんのお便りにあった日本の魂は演歌だという言葉を受けてか、CDショップで何枚か演歌を購入する。
 そうやってユージさんは、日本での短い時間を、間接的にリスナーのみんなと共に過ごすことを選んだ。そしてその隣に私がいるということがとても嬉しくて、幸せで、それと同時に近づいている別れの瞬間に、怯えてしまわなければならなかった。