「先生、ありがと」
「羽田さんの気持ちが晴れたならいいよ」
先生は空を見上げ、二コリと笑った。
「美月」
「え?」
「『羽田さん』じゃなくて、『美月』って呼んでほしい」
「……」
迷惑……かな。
「気が向いたらねー『美月』」
「先生……」
呼んでくれた……。
名前を呼ばれただけで、鼓動が速くなる。
「……相貌失認って、やっぱり理解してもらえないんだなって思ったことがあってね」
「……」
私は突然のように話し出した。
先生もビックリしているかな……。
「私って他の人にとって本当に失礼な奴なんだなって、いつも罪悪感がある。たくさん、たくさん話した人でも、次に会った時には顔が分からなくて……『初めまして』って言葉が相手をすごく傷つける」
「……」
「頭の中を引っ掻き回して、誰だか思い出せ!っていつも焦る。でも、どうしても思い出せないことがある。その度にいつもいつも自分を責める」