いつもの朝、いつもの時間、同じ電車の同じ場所。
そこで葉山先生と会えること、それが私の心を穏やかにしていた。
エー子と一緒じゃない朝は一人電車に乗るのも憂鬱だったのに、今はこの時間が待ち遠しくなっている。
同じ本を片手に乗り込んでくる先生の姿。
いつもの先生の姿に私は微笑んだ。
今まで、人ゴミや電車の中、声をかけられてもそれが誰かわからなくて、いつも気まずい思いをしていた。
「誰ですか?」なんて聞けないから、その人の特徴を探しまくる。
そんなことで本当に疲れる毎日で……。
それが嫌だから、私は誰にも気づかれないよう、声をかけられないよう、つねにうつむいていた。
それが今はドアの方を向き、乗客を背にしているとはいっても、顔を上げられるようにまでなっていた。
探したい人がいる。
見つめたい人がいる。
だから――――。