「……先生……」

私は先生を見上げ、消えそうな声を出した。

「どうしたの?」

先生の低い優しい声。

一瞬、固く縛られていた心が緩められていく感じがした。

この感覚は一体なんなんだろう……。


「ううん、なんでもない」

「なんでもない? 本当?」

他の乗客に聞こえないように、ヒソヒソ話す。

座る私と立っている先生のちょっとしたこの距離がもどかしい。

「うん、なんでもない」

「そっか」

先生はいつも無理に聞いたりはしてこない。


「……先生に会えて、嬉しくて」

「……」


口からスルリと出た言葉に自分で驚いてしまった。

なんでこんな言葉が簡単に出てしまったのか、自分でもわからない。

無言の先生の顔を見上げることしか出来なかった。


「君の姿が見えたから、この電車に飛び乗ったんだ」

「え……」

先生……。

それは、どういう意味……。