「赴任してきたばかりとはいっても副主任なんだ、いい加減覚えてくれよ」

「あ……はい。すみません……あの……」

「これ、三年の全クラスに持って行っておいてくれ」

コピーされた資料の束を私に手渡すと金田先生はすぐに背を向けた。

「……」

全ての人にこの相貌失認という障害を理解してほしいとは思わない。

葉山先生の言ったように『理解出来ない』と言う人だって必ずいる。

でも、少しでも周りの人にカバーしてもらいたいという願望もある。

学校のような人がたくさん集まり生活するような場所では特に。

金田先生は赴任して来たばかりだし、私のこと知らなくてもしょうがない……。

そこまで一人の生徒に意識を向けることも出来ないんだろうし……。

大した時間がかかるようなことじゃないから、用を言いつけられるのも別にいいけど……でも、好きでチアを……部活を辞めたわけじゃない……。

"仕方ない"とあきらめても、考えれば考えるほどモヤモヤして……。


私は無言で資料を受け取ると、職員室を後にした。