いつもの朝、同じ時間の電車に乗る。

エー子はチア部の練習で忙しく、朝も帰りも別になってしまった。

一人の電車は本に目をやり、とにかくうつむく。

誰かに話しかけられるのが嫌だから……いつもそう思っていた。


私の立つ扉の隣の扉の前には、今日も葉山先生が立っている。

同じ時間の同じ場所、そして同じ本を片手に。

それですぐ、"葉山先生"だと気付くことが出来る。

本当はどこにいても先生の顔ですぐ分かるようになったら……と思うけど、でもそれは、私には無理で……。



相貌失認は医療現場で『相貌失認』として正式な診断名で使われることはない。

今の日本では、相貌失認という診断基準が作られていないから。

だから認知度も少なくて、理解してほしいと思っても、それは難しい。

人の顔が分からないなんて言っても、どれだけの人が信じてくれるんだろう……そう思っていた。


だけど先生は違った――――。