「……」
私はそっと先生を見上げた。
あ……。
目が合ったことにドキッとした。
なんだろう……今まで感じたことのない感覚に自分が戸惑う。
「……」
「……」
再びの沈黙。
「……どうして先生こんなところに?」
「ああ、ここうちの実家の最寄り駅なんだよ」
「実家?」
「今は一人暮らししてるけど、母親から呼ばれて実家に行くところだったんだ」
「そうなんだ」
「羽田さんは?」
「私は……乗り過ごしちゃって……家、隣の瀬戸駅なんです。本に夢中になってたら、ここまで来ちゃって」
私の話に先生が笑った。
「以前もそんなことあったよね」
「あ……」
あの時……先生が電車の中で声をかけてくれた時も本に夢中になってた。
「本、好きなんだ?」
「いえ」
「え?」
私の言葉に先生は拍子抜けしたように動きが止まった。
「本好きじゃないんです。本というか……勉強も好きじゃないし。活字とか目がチカチカしちゃう」
「ぷっ……そうなんだ?」
「先生は本好きなの? いつも読んでる」
「ああ、これ?」
カバンの中から一冊の本を取り出すと、その本には"星座と神話"と書いてあった。