「先生ありがとうございます。何度も助けてもらっちゃって……」
「そんなことないよ」
「さっき『うちの生徒に何か用か』って聞いた時、いつもの声よりもっと低いからビックリしちゃって……誰だかわからなかった……」
「ああ、アイツら追っ払うのに、わざと低い声で言ったんだよ」
「そうなんだー」
ちょっとした声の変化でこんなにも誰か分からなくなるなんて、自分でもビックリした。
「……」
「……」
見つめたまま、一瞬の無言。
「……少し、話せる?」
「え……」
先生からの意外な言葉に驚きながらも、私は小さくうなずいた。
「はい」
「あ、ありがとうございます」
手渡されたペットボトルのコーヒー。
「この駅は、あまり人は来ないはずだから」
先生はそう言うと、ペットボトルのフタを開けながら、私の隣に座った。
乗り過ごして着いた駅のホーム、その一番端のベンチに座る。
自分の家の最寄り駅から下り電車は普段あまり乗ることはなくて、隣駅なのに初めて降り立ったような感覚だった。
先生の言うように、降り立つ乗客は少なく感じた。
私はペットボトルを開けると、一口コーヒーを飲む。
先生のとは違う甘いカフェオレ。
この甘さがちょっとホッとさせた。