人間は顔を認識する時、細かい部分を見るのではなく、顔を構成しているパーツの組み合わせを見て"誰か"を判断する。

目だけ、鼻だけ、口だけを見て、その人の特徴からそれが顔だとわかるのに、その顔の全体の組み合わせから誰かを判断することが、私には出来ない。

遠くから先生を見ても、きっと私は、この優しい目が先生だと気付くことは出来ないんだ……。



ガタン!

突然、電車が大きく揺れた。


「きゃっ……」

私はよろけ、本を持つ先生の腕につかまってしまった。


「いたっ!」


「痛っ……」


触れた手から、ビリッという痺れるような痛みが走り、思わず私と先生は声を上げた。


「大丈夫?」

先生が驚いたように私を見つめた。

「あ……はい。ごめんなさい……」


……なに、今の……。


「静電気かな? ずいぶんの刺激が……」

先生もビックリしたように、自分の手首を振ると何度も確認していた。

静電気なのかな……すごい痺れが……。