「あぁ、昨日の」
先生は私たちを見て微笑んだ。
と同時に、エー子が私の腰までの長い髪を背中でクイクイと引っ張った。
「……」
『何か言え』という合図だろう。
「……先生、昨日はありがとうございました」
そう言って私はペコリと頭を下げた。
「いいえ。遅刻はしなかった?」
「はい」
「それなら、よかった」
どことなくクールな話し方が先生の低い声を引き立てていた。
ずっと聞いていても落ち着けるような、そんな声と話し方が心地いい。
「高橋 一生みたいですね」
「え?」
私の言葉に先生は目を丸くした。
「先生の声」
「え、そう? 初めて言われたな」
先生はクスクスと笑う。
「あ、この子、聴力ハンパないんです!」
「は!?」
エー子の下手くそなフォローに、こっちが驚くわ。
「先生、カバンは平気でしたか?」
エー子の話を無視し、私は先生に声をかけた。
「ありがとう。無事に戻ってきたよ」
そう言いながら、網棚に上げられたカバンを指さした。
「よかった」
ホッとした私を見て、先生の目が細まった。
先生の目を近くで見たことがなかった……しっかりした二重の大きな目をしていた。