車両のドアとドア、その距離。

人々の間からその人を見つめる。

時には気付かれないよう背伸びをして……。

そして視線が重なる。

そのドキドキは、ただ嬉しいとかそんなふうに表現することも出来ないくらい――――。

人波に流され、ぐうぜんその人とすれ違った時、優しく香ったライムの香り。

それをずっと覚えていた。


でも――――。


あの事故がなければ、何か変わっていたかな……?

もしかしたら、いつか告白なんてしていたかもしれないよね。

だけど私はあの日以来、その想いを封印したんだ……。

もう私には先生を見つめても、目が合っても、先生の顔を覚えることも出来ないんだから……。

先生と見つめあうことも、怖くて出来ないんだから……。