うちの両親も、先生のお母さんも、なんだかすごく穏やかで……。
あ、うちのお母さんは変わらず泣き虫だけど、先生が私を何度も助けてくれていたことを知って、お母さんは先生とのことを何も言わなくなった。
むしろ、つねに感謝をしているって感じで、会えば「ありがとう。ありがとう」を繰り返して、ちょっと鬱陶しかったりもする。
「なんだか……いろんなことが普通で、毎日が穏やか過ぎて怖い」
「何もない普通のことが幸せだって思えてるってことだよ」
「うん、もう刺激的なことなんてあっても困る」
「あはは」
少しずつ降り出した白い雪の粒が大きくなりだした午後、私とエー子はたあいもない話をずっと続けていた。
それは本当に穏やかな午後で、こんな話しをする日がくるなんて、あの時は思えなかった。
相貌失認という障害を抱え、日々何かに怯え暮らしていた。
相貌失認がなくなったわけではないし、やっぱりそれが原因で不便なこともたくさんある。
でも、『生きにくさ』という気持ちはなくなった。
それは支えてくれる人が、こんなにもたくさんいるということが分かったからかもしれない。
私がそれに気付いたからかもしれない。
私に気付かせるように、何度も何度も、あんな怖い夢を見せられていたのかもしれない……。